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戦国異伝供書
第七十二話 六角家からの話その一

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               第七十二話  六角家からの話
 浅井家は六角家に服従し続けていた、久政はそうしてでも家を残そうとしていたが猿夜叉は天下を見て言った。
「六角家はやがてな」
「傾きますな」
 海北が応えた。
「若殿が思われるに」
「四国から近畿を見るとな」
「今や三好家のものですな」
「都までな、そしてな」
「その三好家の中でも」
「松永殿が大きい、松永殿が天下を取れるとは思わぬが」
 それはないというのだ。
「あの御仁ではな」
「あの御仁は評判が悪過ぎますな」
 赤尾がその松永について述べた。
「やはり」
「そうじゃ、松永殿はな」
「どうしてもですな」
「評判が悪過ぎてじゃ」
 それでというのだ。
「天下人となることはな」
「出来ませぬな」
「公方様の後ろにおられようとも」
 傀儡にして操ろうと、ともいうのだ。
「あの御仁はな」
「あまりにも評判が悪いので」
「悪弾正とも蠍とも呼ばれておるな」
「蠍ですな」
「異国におるという毒虫じゃ」
「何でも鋏を持ち尾が毒針になっていて」
「それで人を刺すな」
 その様なというのだ。
「厄介な虫じゃな」
「そしてその蠍がですな」
「松永殿じゃ、そこまで言われておる御仁がじゃ」
「天下人になることは」
「ない、しかし強い勢力は持てる」
 このことは可能だというのだ。
「それはな」
「それでは」
「うむ、六角家は三好家そして松永殿にな」
「飲み込まれますか」
「八十万石でも三好家の今の勢力を思えば」
 それこそというのだ。
「敗れる」
「それで、ですか」
「その先が暗い六角家に従うよりも」
「独立ですな」 
 雨森が言ってきた。
「若殿のお考えは」
「うむ、それに織田家は必ず大きくなり」
「この天下も」
「三好家ですらじゃ」
 それこそというのだ。
「倒してじゃ」
「天下人になりますか」
「おそらく数年のうちにな」
 大体宗滴と同じことを言った、そして彼が言う通りの見方であった。
「あの御仁はな」
「天下人になられて」
「当家もそこを考えるとな」
「織田家と、ですか」
「これからそうした方がよかろう、だが今の様に頭を抑えられ何でも従う様なことはならん」
 それはというのだ。
「決してな」
「それでは」
「これからが大事じゃ」
 まさにというのだ。
「わしが家督を継いだなら」
「その時は」
「すぐに動く」
「戦もですな」
「することになろうとも」
決心は固い、猿夜叉の返事はそうしたものだった。
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