第七十一話 黄色から紺色へその四
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「近江の者達は大人しいにしてもな」
「あの数で一気に一揆を起こされると」
「越前の一向宗は近江よりずっと多くな」
「しかも隣に加賀もありますな」
「一向宗の国がな」
百姓が持ちたる国、まさに一向宗の国となっている。守護である富樫氏を滅ぼして自分達の国にしたのだ。
「だからな」
「常に一向宗と戦っていますな」
「それでじゃ」
「若し我等が動いても」
「朝倉殿が常に助けてくれるとは限らぬ」
我が子にこのことを言うのだった。
「だからな」
「どうしてもですか」
「そうじゃ」
「独立は出来ぬと」
「そのことを言っておく」
猿夜叉にこう告げた。
「当家はな」
「このままですか」
「六角家に従ってな」
「生きていくしかないですか」
「この戦国の世でな」
「ですが」
それでもとだ、猿夜叉は父に言った。
「六角家はどうも」
「落ち目か」
「そう思いまする、都は今は三好家もっと言えば松永殿が幅を利かしております」
「悪弾正殿じゃな」
「あの御仁が近江に来れば」
若しそうなればというのだ。
「どうなるか、そして当家も」
「松永殿にどうされるか」
「そうも思いますし美濃も」
東のこの国のことも話した。
「その松永殿と並び評判の悪い」
「斎藤殿か」
「あの御仁も近江に来るやも」
「このまま近江と伊賀しか見ておらぬ六角殿の下におってはか」
「危ういともです」
猿夜叉は危機を抱く顔で久政に述べた。
「思いまするが」
「そなたの言うこともわかる、だがな」
「当家だけの力ではですか」
「その六角殿に対することも出来ぬし」
それにと言うのだった。
「しかも当家が独立してやっていけるか」
「以前の様にですか」
「確かに朝倉殿は頼りになるが」
「頼りにしているだけで」
「若し朝倉殿が手助けを出来ねば」
その時はというのだ。
「我等は滅びる、だからのう」
「我等はですか」
「このまま六角家に従いな」
「生きるしかありませぬか」
「左様、この近江の北でな」
「そうですか」
「当家もそれなりの力はあるが」
それでもというのだ。
「六角家には敵わぬ、だからな」
「父上はそのお考えですか」
「変え様がない」
どうしてもとだ、久政は我が子に話した。こうした話は幾度も行なわれていたが久政が首を縦に振ることはなかった。
それで猿夜叉は日々武芸と兵法を中心とした学問に励みつつ浅井家の家臣達にこうしたことをよく言っていた。
「わしが元服すればな」
「その時はですか」
重臣の一人海北綱親が応えた、大柄な武人然とした男だ。
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