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戦国異伝供書
第七十話 独立その九

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「東の武田家に備えるぞ」
「殿、武田家ですが」
 ここで石川が言ってきた。
「今は領地を治めることに腐心されていますが」
「それでもじゃな」
「やはりその目は」
「上洛じゃな」
「それをです」
「望まれておるな」
 家康から言った。
「左様じゃな」
「やはり」
「武田家は駿河と遠江の東を手に入れられたが」
「そのお望みはやはり」
「上洛されてな」
 そしてというのだ。
「天下を統一される」
「それがお望みなので」
「やがてはな」
「上洛に動かれ」
「そうしてな」
「こちらに来ることもですな」
「有り得る」
 東海道、こちらを進んでというのだ。
「中山道やも知れぬが」
「美濃からですか」
「その場合も有り得るが」
「東海道、即ち我等の領内に来る」
「そのこともな」
 やはりというのだ。
「充分に有り得るからな」
「だからですな」
「武田家に備えておこうぞ」
「それがいいですな」
「必ずな、しかし」
 ここで家康は難しい顔でこうも言った。
「武田家は二百万石、我等は五十万石でな」
「しかもですな」
 酒井も言ってきた。
「優れた将帥の方々が揃っておられる」
「きら星の如くな」
「だからですな」
「当家だけではな」
「相手になりませぬか」
「到底な、しかし戦わねばならぬなら」
 その時が来ればとだ、家康は強い言葉で述べた。
「何があろうとな」
「戦われますか」
「当家は武辺の家で三河者達もであろう」
「はい、武辺と忠義はです」
 まさにとだ、酒井は己が主に身を乗り出さんばかりにして答えた。
「他のどの家にも負けませぬ」
「そうであるな」
「このことについては」
 酒井はさらに話した。
「絶対の自信があります」
「ではわしと共に戦ってくれるな」
「地の底水の底までも」
「その言葉信じる、ではな」
「武田家に対しても」
「そうして戦う」
 どうしてもそうせざるを得ない時はというのだ。
「わしも三河の者、即ちな」
「武辺ですな」
「そして忠義は向けられるのでな」
 それでというのだ。
「律儀をじゃ」
「守られますか」
「何があろうともな」
 そうすると言うのだった、ここで。
「そうする」
「それでは」
「その時は頼む、そして普段もな」
「政にもですな」
「宜しく頼む」
 こちらでもというのだ。
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