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曇天に哭く修羅
第一部
決意は固く
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無に戻した彼は厳然に問う。


「立ち会ったのか?」

「いえ、弟子がおりましたので其方(そちら)と」

「儂の知る限り、黒鋼に弟子入りする人間の悉くは特異な存在であるからのう。勝負が預かりになるのも無理は無かろうて」


全司は実に懐かしそうだ。

彼は弟子についても尋ねる。


「あ、そいつについては俺が」


エンドとは幼馴染みだった。


「名前は《立華紫闇(たちばなしあん)》。俺や春斗と同じ十五才。才覚で言えば三流以下です。しかし魔神になることを諦めない狂気を持つ。龍帝に入学した当初は学年でも最弱に近い生徒に手も足も出なかった。しかし一月半で生まれ変わりましたよ。昔からあいつを知ってる身としては驚かざるを得ません」


それには春斗も同意する。

諦めること無く困難を乗り越え地獄を耐え抜いた紫闇は凄まじい、尊敬に値する男だ。

心の底から思う。

未来の好敵手だと。


「奴は此方(こちら)の心を熱くする不思議な男。あの者にだけは負けたくないという想いが有る。故に成長を促すような真似をしました。力を完成させた立華紫闇を叩き伏せ、己が強さを証明する為に。とは言ってもあの男が【夏期龍帝祭】で優勝することが前提になりますが」


柄にも無く熱くなった春斗だったが、全司の方は彼を冷然とした目で見る。


「そうか……。どうあっても考えは変わらぬのだな。しかし今一度繰り返させてもらおう。江神春斗は半端にしか狂気を受け継いでいない。人と鬼の狭間を彷徨うばかりで先に進むこと(あた)わず。ならばいっそ剣を捨てて常道を歩んだ方が幸せであろう」


春斗に哀れみの目が向く。

春斗を信じていない。

何の期待も抱いてはいないのだ。

亡き父母も同じ目をしていた。

彼等にとって、いや、江神という一族にとってどんなに剣才が有ろうと春斗は欠陥品。

鬼の狂気に染まれない失敗作。


(ならばそれで良い)


自分は人のままで鬼の江神を超える。

魅那風流以外の力に手を出してでも。


(既に自分のことを応援し、認め、支えてくれている人達もおり、彼等の力も有って世界でも上から数えられる領域に入った実力の俺は、もはや江神という枠には囚われないし縛られない)


成長した立華紫闇を倒す。

春斗の闘技者としての集大成はそれを成し遂げて漸く完成を見たと言えるのだ。

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