第9回 手袋・マフラー(プニぐだ♀)
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「さっ、さむ……むり、」
意気揚々と飛び出して行った勢いは何処へやら、少女はたった数歩で立ち止まり首を竦めてしまっていた。英霊である自分には何の影響もないが、人の身には些か冷気が凍みるのだろう。
「マスター、お前さんなあ」
「や、あの、礼装来てるし……コートもほら、特製だから、その、」
聞き間違いでなければ、"防寒対策を"という出掛けの気遣いに対し、マスターは了承の返答をしていたはず。いつもより細まって奥にある瞳を覗き込んで指摘すれば、落ち着きなく目を泳がせた後に口籠ってしまった。自覚はあるらしく所在なさげにちらと見上げてくる視線と風に靡く琥珀色。呆れ混じりにそれらを眺めているこちらにも寒さが伝染りそうだ。
「はあ――ったく、こっち来いよ」
おずおずと距離を詰めた少女の首元へ、持ってきていたマフラーをかけてやる。生憎、こういった経験はないためにぐるぐると巻き付けてやることしか出来ないが。虚を衝かれ瞬きを繰り返す様を見下ろしながら、続いて両手に手袋をはめれば完了だ。
「お転婆もほどほどにしとけよ?」
「……クー、ありがと」
「で? どこ行くんだ」
半分ほどマフラーに埋もれている笑顔に行き先を尋ねるも、声高に告げられた場所は室内。引かれるがままの手にはもこもことした感触のみが伝わってくる。引き返す道すがら、食堂へ辿り着くまでの僅かな間に、少女の指先が温度を取り戻せばいい。そう思って、手袋越しでも十分に覆ってしまえる小さな手を包み込んだ。
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