第8回 やきもち(槍ぐだ♀)
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魔力の感知にやや疎い少女を霊体化したままじっと凝視する。驚かせてやろうという当初の目論見は、すぐに取り下げた。なにせ、不規則に唸り声を発しながらタブレットを操作している、その様があまりにも真剣だったから。
「しっかしまあ……」
相変わらずな少女の耳に届かぬよう口の中だけで呟く。サーヴァントの強化、素材あたりに悩んでいるのかと思いきや、なんと彼女は輝かしい宝石の写真を見比べていたのだ。とうとう、色気付きやがったか――。
うっかり舌打ちをしかけ、己は何にイラついているのだと我に返る。別にマスターは公私混同している訳ではないというのに。
「分っかんねぇなぁ」
「なにがー? あれ、ランサーいつの間に」
「おう。ついさっきな」
ぎくり、一瞬だけ強張った身体には気付かれていまい。平然を装って実体化し、好機を逃がさず問いかける。のんびりとした少女の声でいくらか緩和されているものの、あの不明瞭な感覚は依然として蟠っていた。背中へ圧し掛かりながら、琥珀色の頭頂部に顎を乗せる。
「おーもーいー! やめてよー」
「オレの質問にちゃあんと答えられたらやめてやるよ」
拒否感の薄い、言葉だけの抗議が耳に心地よい。敢えてぐりぐりと頭を揺らしてやれば、とうとう少女の笑い声が弾けた。
「宝石?」
「欲しいのか」
「んーん、ちょっと違う、かな」
トン、と細い指が液晶の上を跳ねる。空気と皮膚、双方から届く音に照れが混ざったことに気付かぬ己ではない。収まりつつあった靄が鎌首をもたげそうになり、表示されたままのきらびやかな画像を睨み付ける。言えよ、と互いの表情が見えないのをいいことに拘束を強めて先を促す。
「うわ、わ、力入れないでって、ちゃんと、言うからあ」
「よし」
「その、ね……。――の、色を身に付けるなら、どっちがいいかなって。出来たら両方がいいんだけど、センス良くないとダメだし」
「は?」
思わず間抜けな声が出てしまった。聞き間違いでなければ、この少女は己の色だと言わなかったか。視線を手元へ落とした先、画面をよくよく確認してみる。ああ、確かにそうだ。ずらりと並んでいる宝石達は全て、青か赤、どちらかの色のものであった。てっきり、赤い弓兵やキャット、青いセイバーや玉藻の前あたりのそれだと決め付けていたのだ。違うのか、するりと落ちた呟きにむくれていた少女が動いた。
「これだけ一緒に居るのに、気付いてくれないの?」
されるがまま、頬を包まれ明るい瞳を見返す。そこには激情にも似た光が揺れている。そうだな、察しが悪かった。腰元へ腕を伸ばし、正面から囲い込んで囁く。
「分かればよろしい。それに、ちょっと嬉しかったし」
「オレとしちゃあ、格好つかねえんだがな」
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