第1部
ロマリア〜シャンパーニの塔
王様の秘密
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く、あからさまに動揺している。
けれど昨日拝見したときとは打って変わって、どこにでもいる町人のような質素な格好をしている。しかも元々帽子を目深に被っており、顔が下に向いているときなどは、背格好だけでは判別できず、誰なのかまったくわからない。
それでも私の問いを動揺で答えてくれたということは、間違いない。彼こそが前ロマリア王なのだ。
思いがけず探し人を見つけることが出来た私は、驚きと喜びが心の内で混ざり合うのを感じつつ、ロマリア王をさらに問い詰める。
「あの、失礼ですが、なぜこんなところに? 実は私、あなたを探していたんですよ」
すると王は顔を上げ、ばつの悪そうな表情で口を継いだ。
「いや、お恥ずかしい。まさか勇者殿のお仲間にこんなところを見られてしまうとは。……実はな、これはわしの唯一の趣味なのじゃ」
「趣味、ですか?」
私がきょとんとしていると、王は照れたように頬を掻いた。
「いや、国を治める者として、このような趣味はあまり芳しくはないのはわかっておる。だが人の嗜好はそう簡単には変えられぬ。それに、趣味に興じることは数多くの公務をこなすわしにとって、いわば心のオアシスなのじゃ。じゃが王の姿では国民にどれだけ顰蹙を買うか計り知れぬ。そんな折、偶然にもおぬしたちが現われた。そこでひらめいたのじゃ。勇者殿に王位を預けることで、わしは今ただの一市民として趣味に没頭することができるということを」
えーと。ということは、賭け事をやりたいがために、ユウリに一時的に王位を譲ったってこと?
「あ、あのー王様。ひょっとしたらその判断、間違っちゃったかもしれないです……」
「んむ? どういうことじゃ?」
今度は王のほうがきょとんとする。すると、ひときわ大きい歓声がこちらまで届いた。
「おお、大穴のアルミラージが買ったのか。くっ、あそこで負け続けなければあいつに賭けられたのに……」
もしかして王様、賭けるお金がないからここにずっといるのだろうか? そんなことを思う私など気にも留めず、王は歯噛みしたまま、次の対戦カードが気になるのか、歓声が沸き起こっている場所へと誘われるように向かっていった。
その後を目で追った私は、はるか向こうに場違いな服を着た人間がそこに堂々とたたずんでいるのを発見した。
この国で一番場違いな服を着ている人間と言えば―――。
「ユウリ!?」
普通の人間なら、その姿ではけして入ろうとはしないという常識を覆した、ある意味勇者な男は、(本当の意味でも勇者だが)、私の視線などまったく感じていない様子で、次の対戦表を真剣に眺めていたのだった。
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