第五章 仲間
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、ほんの僅かのこととはいえ、記憶を消すことに変わりはない。
記憶というのは、本当は誰かにどうこうすることなど出来やしない、してはいけない、その人間を作り上げる大切なものだと思っている。
だからアサキは、この子を救うためとはいえ、ちょっと寂しい複雑な気持ちになっていたのだ。
必要悪と割り切るしかないのだろうが。
あれ……
わたしも小さな頃にヴァイスタに襲われて、魔法使いのお姉さんに助けられたことがあるけど、どうして記憶を消されなかったんだろう。
それだけじゃない、
わたしは、どうして記憶を消すことに対して、ここまでの嫌悪感があるんだろうな。
こんな恐怖なら、忘れた方がいいに決まっているのに。
どうして……
まあ、いいか、そんな話は。
いまは戦いの最中なんだ。
ヴァイスタを倒さなくちゃあ、この子の記憶どころか世界そのものが消えてしまうのだから。
「ごめん」
もう一度、囁くようにいうと、
「フェアギス」
呪文を唱えた。
その効果で、女の子が、とろーんとした表情になった。
「怖い思いさせちゃってごめんね。もう誰もあんな目に遭わないで済む世界、いつか絶対に作るから」
そういうと、リストフォンをはめた左腕を立てて、瘴気溢れる異空へと再び入り込んだ。
青い空から、一瞬にしてくすんだオレンジ色の空へ。
真っ白い色をしたアスファルトの上に、アサキは立った。
歪んだ住宅街には、誰の姿もない。
治奈たちがいたはずであるが、きっとヴァイスタを倒して昇天させ、先へと進んだのだろう。
リストフォンを見て、みんなの位置を確認すると、予想通り、みな先に進んでいる。
浅野谷九号公園の付近で、ヴァイスタと交戦中のようだ。
「急がなくちゃ」
ぼそり口を開くと、誰もいない捻じれ歪んだ住宅街の中を走り出した。
肉を噛みちぎられた左腕の、ずきずきとする痛みを堪えながら。
3
裏をかかれた。
ということだろうか。
それとも偶然、不運。
間違いなくいえるのは、彼女ら、カズミたちが明らかに不利な状況に追い込まれているということ。
敵を一箇所に集め、狭い地形の箇所を上手く利用することで囲まれないようにして、一点集中で少しずつ減らしていこう、そのような作戦だったのに。
反対に、ヴァイスタの方こそが、巧みに地形を利用している感じだ。
アサキは現在、戦場になっている公園の少し手前にある、小高い丘状の地形に、一人、立っている。
女の子を現界に送り届けた後、戦場へ向かう途中、戦っているカズミたちの姿が眼下に見えたので、ここで少しだけ足を止めて、負傷した左腕を治療しつつ様子を見ているところだ。
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