第五章 仲間
[4/20]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
皮膚が、ざっくりえぐられており、どろりと血が垂れた。
ヴァイスタの、腕の先端にある無数の牙に、腕の肉を食いちぎられたのである。
腕を一本、持っていかれてもおかしくなかった。
無意識に避けはしたものの、完全にはかわし切れなかったのだ。
また、二本の触手が、大蛇となりアサキを襲う。
剣を両手に持ったアサキは、下から跳ね上げた。
そのままヴァイスタの脇を駆け抜けて、女の子の首を締めている太く真っ白な腕に、
「やあああ!」
大きな声で叫びながら、剣を振り下ろした。
早く助けないと、という焦りのため、またも魔力を込め切ることが出来ず、両断することは出来なかった。
だが、締めつける力が緩んで、その隙に女の子の腕を掴んで引っ張り出すことが出来た。
女の子は、青ざめた顔のまま、げほごほとむせている。
「もう、大丈夫だからね」
アサキは女の子に、柔らかな笑顔を見せた。
本当は怖いけど、ちょっと無理をして。
腕の怪我、泣きたいほど痛いけど、ちょっと無理をして。
「アサキチ、やるじゃねえか!」
狭い道路、ヴァイスタを挟んだ反対側で、カズミがガッツポーズを取った。
弟子の成長が嬉しい、とそんな顔である。
本人に聞いても、そうとは認めないだろうが。
「アサキちゃん! そいつとはうちらが戦うけえ、女の子を現界へ戻してあげてくれる? 記憶の消し方は、分かる?」
治奈の叫び声に、アサキは頷いた。
「前に、教えて貰ったから!」
「怪我、治してからきてな」
「分かった! ……それじゃ、行くよ」
アサキは右手で、女の子の左手をしっかり握りながら、左腕を立ててカーテンを開くように横へ動かした。
一歩前へと足を出すと、そこにはよく知った住宅街があった。
歪んでおらず、色も普段通り。
青い空に、
輝く太陽、
爽やかな風。
現界である。
アサキは、太陽の眩しさに目を細めた。
「あれ?」
女の子が怯えと疑念の混じった表情で、きょろきょろ周囲を見回している。
そうもなるだろう。
ほんの数十秒前には、万物おぞましく歪んだ瘴気漂う世界で、顔のない巨人に首を潰されかけていたのだから。
アサキも、素早く首を動かして周囲を確認した。
魔道着姿のままなので、誰かに見られることのないように。
誰もいないことを確認すると、アサキは女の子に微笑み掛けながら頭の上に軽く手を乗せた。
その笑みは、少し寂しげだった。
「ごめんね」
アサキは謝った。
これから、この女の子の記憶を消すことに対して。
ヴァイスタに引き込まれ襲われた、この数分間の記憶を消すだけ。
でも
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ