第五章 仲間
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「このお!」
アサキの反撃だ。
両手に持っている剣を、斜め下からすくい上げ、力一杯に振るうと、ぶちゅりとゼリーを潰すに似た不気味な音がして、見事、白い怪物の首が跳ね飛んでいた。
いや、まだぎりぎり皮一枚で繋がっている状態だ。
首から上の部分が、ぬるりと背中側に垂れ下がって、そのままぴくりとも動きがない。
「いまです、アサキさん!」
緑の魔道着、大鳥正香が叫んだ。
「分かった正香ちゃん。……っとなんだっけ、また忘れちゃった。そうだ……イヒベルデベシュテレン、ゲーナックヘッレ!」
アサキが呪文を唱えると、ぼおっと自身の右手が薄青く光り輝いた。
「生まれてきた世界へ、帰れえ!」
自分が致命傷を与えたヴァイスタへ近寄ると、薄青く輝いている手のひらを、ゆっくりと腹部へ軽く押し当てた。
ちっ、ち、ちっ
一体どこから発声しているのか、ヴァイスタからそんな音が漏れる。舌打ちのような、皮膚が急激に乾燥して縮んでいるような。
と、突然、ヴァイスタの身体が動き出した。
といっても、四肢を動かしたわけではない。
ビデオのコマ送り逆再生を見ているかのように、刎ねられもげそうになっている首が、戻っていくのだ。
ほんの僅かの間に、剣による一撃を受ける前の、無傷な状態へと、完全に戻っていた。
だけど完全に同じではない。
顔に当たる部分は、先ほどまでは完全なのっぺらぼうだったのが、いつの間にか魚みたいな小さな口が生じていた。
その口が、ニイーッと微笑んだかと思うと、ゼリー状のぬるぬるぷるぷるしていた全身は、いつしか干からびてシワシワになっており、頭頂から順に、さらさらと光る粉になって、風に溶けて消えた。
アサキは、剣を地に突き立てて、はあはあと息を切らせ、肩を上下させている。
ふう。と、小さくため息を吐いた。
「この、おちょぼ口でニヤリ笑うの、いつまでも慣れんなあ」
紫の魔道着、治奈がしかめっ面をしている。
「治奈はビビリだからな。……しかしアサキ、お前よく一人で、ヴァイスタを仕留めたじゃねえか。合宿でかなり実力をつけやがったな。ファームアップのおかげもあるにせよ」
カズミに、乱暴な言葉使いながらも褒められたアサキは、
「えー、そうかなあ?」
後ろ頭を掻きながら、顔の筋肉をすっかり緩めて、ちょっと照れたふうに、えへへえと笑った。
だが次の瞬間、
その笑みが凍りついていた。
まぶたが、驚きに見開かれていた。
眼前ほんの数センチのところで、また別のヴァイスタから伸びる腕、その先端に生えている無数の鋭い歯が、ガチガチと獰猛に打ち鳴らされていたのである。
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