第二章
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「だから安心して俺が帰るのを待っていてくれ」
「だから行かない方がいいぞ」
「山に入った瞬間に竜に食われるぞ」
「誰もあの山には近寄らないんだ」
入るどころかというのだ。
「本当に恐ろしい竜なんだぞ」
「ロスタムですら勝てないぞ」
「イスカンダルでもだ」
イスラムの偉大な英雄達でもというのだ。
「それでどうしろっていうんだ」
「剣も弓矢も魔法も駄目だっていうあんたが」
「どうして竜に勝てる」
「無理に決まってる」
「だから俺にはそんなものより強いものがあるんだ」
シンドバットの言葉は変わらなかった、その笑顔も。
「今言っただろ」
「頭と肝っ玉か」
「その二つがあるか」
「それに死んでもな」
例えそうなってもというのだ。
「身一つ、しかも死ぬも生きるもアッラーの思し召しだろ」
「それはな」
「そうだけれどな」
「これでも一生懸命アッラーを信仰しているつもりだしな」
礼拝と喜捨それにラマダン中の断食は怠った覚えはない。
「だからな」
「死んでも大丈夫か」
「天国に行けるか」
「だから死んでも平気か」
「それなら」
「しかも竜のところに行って負けて喰われても」
シンドバットはさらに言った。
「それがジハードになるならな」
「悪い竜と戦うならジハードか」
「そうもなるか」
「確実に天国に行ける、そう考えたらな」
「怖くない」
「そんな気持ちはないか」
「そうさ、だから行って来るさ」
こう言ってだった、シンドバットは意気揚々と明るい笑顔で山に向かった。そうしてそのうえでだった。
シンドバットは一人山に入った、そのうえで早速掘り出すとすぐに金銀や様々な種類の宝石が出て来た。それでだった。
シンドバットはそうした宝を持って来た大きな袋に入れていった、そうしてかなりのものを手に入れていくと。
突如後ろから声がした、地の底から響く様な低い声だった。
「ここよりもっと掘れるところがあるぞ」
「その声は」
シンドバットが振り向くとだった、そこには。
とてつもなく巨大で全身を黒い鱗に覆われ蝙蝠の様な翼を持つ竜がいた、シンドバットはその竜を見てまずはこう言った。
「頭は一つか」
「頭が三つの竜なぞそういるか」
竜はその一つの頭で答えた。
「アジ=ダハーカだけだ」
「そうなのか」
「あの邪竜は特別だ」
竜の中でもというのだ。
「悪い竜の中でも王の中の王と言える」
「そうした奴でか」
「力もわしなぞとは比べものにならず」
そしてというのだ。
「邪悪さもだ」
「悪い竜の中でか」
「格が違う」
まさにというのだ。
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