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親切な竜
第一章
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                親切な竜
 ペルシャの北にいる竜は実に恐ろしい存在であった。
「とてつもなく巨大で空も飛ぶんだ」
「全身真っ黒で物凄く分厚い鱗に全身を覆われているんだ」
「どんな剣も矢も魔法もその鱗には通じない」
「頭が三つあってそれぞれの口から凄まじい炎を放つ」
「恐ろしく頭がよくどんな魔法も使う」
「シャイターンよりも恐ろしい奴だ」
「あの竜が本気になれば国の二つや三つ普通に滅んでしまうぞ」
 こう話して誰もがその竜がいる山に近寄ろうとしなかった、だがその話を聞いてもだった。商人であるシンドバットは言った。
「しかしその山には多くの金や銀や宝石が眠っているんだろう?」
「その通りだ」
「そこにあるものは素晴らしい」
「ちょっと足元を掘れば金や銀が出て来る」
「宝石もだ」
「竜が埋めているのかも知れないが」
「あの山に入ればだ」
 それこそとだ、ペルシャのある街の者達はシンドバットに話した。
「忽ち大金持ちだ」
「それこそすぐに一生遊んで暮らせるだけのものが手に入る」
「あんな豊かな山はないだろうな」
「まさに財宝の山だ」
「山自体が財宝みたいなものだ」
「それならだ」
 シンドバットはその話を聞いてさらに言った。
「是非な」
「山に入ってか」
「金や銀を手に入れるのか」
「財宝もか」
「そうするつもりか」
「危険を冒さないとな」
 それこそとだ、シンドバットは明るい笑顔で話した。溌剌とした若々しい青年であり表情も顔立ちもいい。中背で引き締まった身体も若者らしく洒落た上着とズボンそしてターバンも実によく似合っている。
「大きな儲けにならないからな」
「だからか」
「あの山に入ってか」
「儲けるつもりか」
「金銀や財宝を手に入れるか」
「そうしてやるよ、今から」
 シンドバットはペルシャ人達に笑顔のまま話した。
「そして今回も大儲けだ」
「あんたはそう言うがな」
「あそこの竜はとんでもない奴だぞ」
「只の竜じゃないぞ」
「アジ=ダハーカみたいな奴だ」
 このかつてペルシャを恐怖のどん底に落とした邪竜に匹敵するまでに恐ろしい存在だというのである。
「あんなのと戦ってもどうしようもないぞ」
「ましてあんたそんなに強いか?」
「ロスタムやイスカンダル程強いのか?」
「とてもそうは思えないが」
「俺は商人さ、そんなに強くないさ」
 シンドバットはどうかという彼等に笑って返した。
「実際な」
「それでもか」
「あんたはいいっていうのか」
「大丈夫だっていうのか」
「そうさ、大丈夫さ」
 まさにという返事だった。
「俺には頭と肝っ玉があるからな」
「腕っぷしや剣の腕はなくてもか」
「魔法が使えなくてもか」
「頭と肝っ玉があるからか」

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