第五部〈皇国〉軍の矜持
第七十六話 六芒郭攻略戦(二)
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そうか、とアラノックはゆっくりとうなずいた。早朝である、ユーリアは上機嫌に東方辺境領軍の師団長らに声をかけて回っている。上手くすれば野戦に持ち込める、と考えているのだから当然であった。
フリッツラ―も相応の用意をしていたが、想定外の客人が訪れた。
白衣の軍服を着た〈帝国〉本領軍中将、アラノックだ。攻勢直前に攻城戦の責任者が指揮下にない師団司令部にいる理由はただ一つ、ユーリアへ急用があるからだ。
「苦労もあっただろう、本領や西方諸候領と東方辺境領はやり方が色々と違うようだな
私もこちらに来て驚いた」
「それなりに苦労しましたが。閣下が今抱えていらっしゃる程の苦労ではありません」
アラノックはふっと笑みを浮かべた。フリッツラ―からすれば迷惑極まりないがそれでも邪険にできない何かがこの初老の男にはある。
野戦で鍛えられた政治がらみの騒動から距離を置いた常道の将軍、と似通った点があるからかもしれない。
「君達の兵は良く動くな、本領兵も負けているつもりはないが、貴官らの下級部隊の勇猛さには目を見張るよ」
「土地柄であります、蛮族鎮定が主任務ですが、敵は少数の部族の連合になることが多く。アスローンや凱のように万単位の隊列を組む事がすくないのです」
「成程、そこからあの独特の戦い方の発想ができたのか、あぁそれを実現化させるのはよほどの苦労があったのであろうな」
大したものだ、とアラノックは得心したように頷き、前を見た。
「すまぬが殿下は‥‥」
「今しばしお待ちを、御戻りになられます」
「南部の警戒線の強化に出る兵の閲兵か、さすが殿下は兵の士気をよく見ておられる」
昨日は兵達が殿下の恋歌を歌っていたよ、とアラノックは何かを惜しむように言った。 兵の事なのか、別の何かか、フリッツラ―は考えようとしてやめた。
「防衛線の連中が随分と怪しげな動きをしています。アレクサンドロス作戦ではシュヴェーリン閣下が戦死しております、侮っては痛い目を見る難敵を相手です」
「わかっている、第1軍団まで動かしてくれ、とはいわぬよ」
アラノックは鷹揚に手を振ってみせた。 銃を握り、血を流すのは本領兵だけでよい、といっているのだ。
「鎮定軍参謀長殿入室!!」
師団司令部附きの候補生の声にアラノックは機敏に立ち上がり、メレンティンと敬礼を交わす。
「メレンティン”少将”、私は鎮定軍司令官殿下と話がしたい」
参謀長ではなく少将と呼ばれ、メレンティンは顔をこわばらせた。
「しかしですな、閣下。わたくしが――」
普段は穏やかに振舞う二人の間に走る緊迫した空気にフリッツラ―は興味を示さない。それもまたフリッツラ―の処世術である。
「私は司令官閣下と話さねばならないのだ。”今後の鎮定軍”の為にも――」
「
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