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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第七十六話 六芒郭攻略戦(二)
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わけ若くして副帝を継承することになったので事情を鑑みれば、この世への意見がいささか以上に不通と異なるのも当然であった。

 
「殿下」メレンティンは逡巡した。
 何をどう正すべきなのか、眼前の天性の作戦家は既に目を皇都へと通ずる山脈にむけている。本領軍は既に選択肢を失った、であるからにはここでユーリアが示した以上に譲るのはかえって問題を根深くするかもしれない。
 それになにより”ユーリアはアラノック達の責を問うてはいない”のだ。
 だが現実として要塞は依然としてそこにあり、ユーリアはすでに半数の兵を磨り潰し、なおも全力をもって叩き潰そうとしている。
 ラスティニアンのような男は〈帝国〉貴族の中にも少なくない、そうした男達がこれをどう受け止めるか――
「彼らには戦後、いえ、要塞を落とした後に報いてやってください。無論生き残った者達にも」
 要塞を陥落させた後の処理で工面するしかない。将兵に報いて見せれば冬営の間に空気も変わるだろう。

  それに何より、ようやく気分が上向いたユーリアに水をさす羽目になる事は避けたかった。メレンティンは良き参謀であるがまた同時に良き家臣あろうとした。なのであった。
 ユーリアはわかったわ、と手を振り、話題を変えた。
「わかっている。だがそれよりも外の敵よ。この要塞を盾に引きこもっていた連中がいよいよ動き出したのだから。
――何か手を打ってくるのはわかる。あの男が何を目的にうごくのか、よみきってあげないと。ようやく楽しくなってきたわ」
 ユーリアは高揚していた。この数か月、姿を見せなかった敵手が盤面に現れたのだと直感していた

「バドウ、ですか。彼は恐らくナイオウドウにおります。打って出るとしたら――」

「それだけじゃないわ。相当何かを仕込んでるわよ、三街道全てで動きがあるのだから」
「カミンスキィをナイオウドウに、コウリュウドウにはデュランダルを
ヒガシエンドウにフリッツラ―の師団から一個旅団、兵を割きすぎていると思いますが」

「ここで動くとしたらこの要塞の開囲が目的よ。
それならば迎え撃って会戦に引き込めればよし、そう素直にいかなくても行動を封じ込めれば冬営の間、楽ができる。それに――」

「救援作戦が失敗すれば要塞も降伏するかもしれない、そうでなくとも戦意が落ちる、そうなれば第一軍団と第二軍団の和解に使える、という事ですな」
 メレンティンは安堵した。彼女は先を見据えて絵図を描いていた。内部の問題も構図に取り込んで。メレンティンはユーリアの副帝としての在り方を改めて再確認した。
 


十月九日 午前第六刻 第15東方辺境領重猟兵師団駐屯地
師団長 オイゲン・クルセウム・フォン・フリッツラー少将


「そうか、君は西方諸候領出身か」「はい、閣下」
 
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