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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第七十六話 六芒郭攻略戦(二)
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かさなかったので――軍曹の腹を眺めながら命令した。

「は、配食を続行する、ぐ、軍曹。ま、回り方を決めよう」

 軍曹は唸り声をあげた
「わかりました、わかりましたよ。おい、お前ら糧櫃を降ろすなよ!」
 丸枝の下半身から滴っているのは糧櫃の汁物でも水筒の水でもない事を軍曹は知悉していた。
 そしてそれを嘲笑するのは愚物のすることであることも。丸枝中尉の部下は二割ほどが戦死した。
 それでも彼らはその日も飯を配り終えるまで仕事をつづけ、日が降る時には少しばかり安心しながら復旧作業を始めた男たちの為に飯を配り歩いた。

 駒城と西原が動かした兵站機構は”史実”以上に堅牢で柔軟な六芒郭を作り上げた。新城直衛と彼を支える中枢は懸命にそれを活用していた。
 六芒郭側の死者は六百名に届くほどであり、8割が南突角堡に集中していた。
 新城直衛は報告を聞くと頷き、近衛総軍前線司令部と駒州軍司令部、そして実仁親王のいる近衛総監部へ連絡を取った。



同日 午後第七刻 東方辺境領鎮定軍司令部
鎮定軍参謀長 クラウス・フォン・メレンティン少将


 鎮定軍本営は重い沈黙に包まれた。ラスティニアン参謀長が最終的な報告を淡々と読み上げ、所見を述べる。
 この日、〈帝国〉本領軍は15,000名を超える死傷者を出した。銃兵は半数以上が戦死したことになる。一方で東方辺境領軍はさしたる損害を受けていない、擾乱砲撃で多少砲を損耗しただけである。
 一方、〈帝国〉本領第24強襲銃兵師団はこの日、戦力を喪失したとみなされた。第二軍団の半数はこの日、身動きが取れなくなったことになる。

「‥‥敵も損耗している筈です。あの無茶苦茶な火力は長持ちしない。引き続き攻勢を続け、敵を磨り潰します」
 ラスティニアンの顔面は引き攣り、目は血走っている。主力の一個師団が無力化した今、もはや迂回突破案すらも意味がうすれてしまった。
ここで迂回突破をしても東方辺境領軍の勝利の裏で無為に磨り潰された本領軍が残るだけだ。
 しかしながら手を抜けば帝室にして東方辺境領軍を統括する元帥の怒りを買うことになる‥‥‥第二軍団首脳部は望まぬ泥沼に両足がはまり込んだことを意識せざるをえなくなった。

「正攻法を根気よく続けるしかない、軍直轄砲兵も引き続き支援に出しましょう」
 メレンティンは東方鎮定軍参謀長ではなく東方辺境領姫の側近としてこの状況を喜び、後ろめたくもあった。
 少なくとも味方の損耗を喜ぶことは唾棄すべき人間のすることだと善悪の基準を維持するだけの人間性を残していたのだ。数多の人間を殺し、それを書類上の数字で把握する事が仕事になった今でもそうであることは驚くべきことなのかもしれない。

 メレンティンはユーリアに目配せをした。今この時にアラノック達を明
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