暁 〜小説投稿サイト〜
或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第七十六話 六芒郭攻略戦(二)
[3/11]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
者達が集まった掩体壕の中に砲弾が飛び込み、特火点すら補強が甘かったものは直撃を受けて崩れ落ちる。
 強固に作ったとしてもでも砲門から散弾が飛び込んでくればそれまでだ。
 そんな中で場違いなものがころがりこんできた、というえば本人の名誉を守った表現である。より正確に描写しよう。
 匪賊のような顔をした男たちに世間知らずの冴えない学徒のような男が放り込まれた。
「あ、ありがとう」 場違いに調子の外れた落ち着きのない声で丸枝は応じた。
 彼の今の役職は 六芒郭要塞兵站部糧食班、戦闘配食担当第二席南突角堡担当将校である。ちなみに総攻撃直前までは第三席当番将校補佐であった。
 新城支隊において要塞兵站部もまた破綻寸前で辛うじて稼働している状況だ、丸枝中尉も飯運びの陣頭指揮を執っていればよかったのであるが、損耗が相次具のは兵站部も例外ではない。今は南突角堡全体の配食を管理(している下士官たちの神輿)を務めている。
  本来、彼の仕事は櫃を担ぎ、 砲弾を浴びせられる中で各砲座へ飯を輸送する部隊の指揮官である。この世界に属する全ての将校が望む配置とはとてもいえない――という言葉もふてきかくだろう、なにしろこの世界で最も発展した軍隊である〈帝国〉軍にも、アスローン軍にもこのような仕事に将校をつけることはない。そもそも戦闘配食という概念そのものが存在しないのだ。
 もっとも丸枝は自分の今の状況に疑問を持ったことはない。
 単純に客観視するだけの暇はないのだ。 何しろ新城支隊は何もかもが寄せ集めである。第五〇一大隊の兵站機構は確かに充実していたがその恩恵は九千を超える敗残兵を賄えるわけもない。
 丸枝中尉はこれまでの軍隊生活の中で最も混乱しきった中で陣頭を這いずりまわって泣き叫びながらも休まず〈帝国〉軍では将校の仕事ですらない、飯を配り歩く仕事をしてきた。
 今の配置の変化も昇任とすら受け止めていない。むしろ周りが大変だから自分のところにもお鉢が回ってきた、としか思っていなかった。
 
「将校殿、このままでは全滅します!」 糧櫃を背負った伍長が叫んだ。「砲撃が終わるまで、ここで待ちましょう!!」
「でも」丸枝は顔面蒼白で視線は泳ぎ、声はか細く震わえている。それでも彼は退かない。
「伏せてください、 当番将校殿!こんな時に飯を食える奴なんかいませんよ!!」
  糧櫃を背負った兵達も口々に怒鳴った。  
 丸枝は鼻をすすった。伏せないのは膝が笑って言う事を聞かないからだ。

「ダ、ダメなんだよ、お、遅れたら、飯を食えないまま戦う人たちがでちゃう、そっ、それじゃあ、ダメな――」
 掩体壕が揺れた。丸枝は幼児のような悲鳴を上げてよろけた。
兵達も似たような有様だ。だが、それでもこの話は終わらないのだとみな知っていた。
 丸枝は――幸運にも腰を抜
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ