第六章
[8]前話
「ああしてね」
「ご気質がそうで」
「それで、ですね」
「その為にですね」
「敵も多いからね」
このこともあってというのだ。
「本当にね」
「気の毒ですか」
「そう言われますか」
「カール様も」
「そうだよ、僕はね」
また言うのだった。
「ずっとあの人と一緒にいたら余計にね」
「思われますか」
「旦那様が気の毒な方と」
「その様に」
「そう思うよ、しかしね」
ここでだ、こうも言うのだった。
「叔父さんは言われた通りにね」
「旦那様がですか」
「言われることですか」
「そのことは」
「うん、それはね」
甥から見てもだった。
「僕も思うことだよ」
「左様ですね」
「色々とある方ですが」
「気の毒な方であることは事実ですね」
「どうしても」
「そうだよ、しかし」
甥はここでこうも言った。
「あの人はそれでも前を向いているね」
「一時期自殺を考えられたとか」
「そう聞いていますが」
「お耳のことで」
「そうだったそうですね」
「うん、けれどね」
このことは事実だった、もっと言えばこの甥にしてもかつて叔父との関係で自殺未遂を起こした。そうしたこともあったのだ。
それだけにわかることだった、自分のこともあるので。それで言うのだった。
「あの人は自殺しようと思いとどまって」
「そうしてですね」
「作曲を続けられていますね」
「あの通りに」
「耳のことも他のことも運命にしても」
ベートーベン、彼のそれにしてもというのだ。
「それでもだよ」
「あの方は前を向かれていますね」
「そして運命に立ち向かわれている」
「そうなのですね」
「そうだよ、そのことは間違いないよ」
こう使用人達に話してだった、甥は叔父を見守っていった。そうしてだった。
ベートーベンは彼の見ている前で作曲を続けた、一曲一曲を完成させどの曲も歴史に残っている。問題の多いどころではない偉大な作曲家は癇癪を起こしつつも名曲を創ることで己の運命に立ち向かった。このことは事実であろう。
運命 完
2019・12・28
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