第三章
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「ワインを用意しよう」
「トカイですね」
「旦那様がお好きな」
「それをですね」
「うん、叔父さんはあのワインが好きだからね」
トカイ、ハンガリーのこのワインがというのだ。
「だからね」
「それで、ですか」
「まずはそれを飲んで頂いて」
「機嫌を幾分でもなおして頂いて」
「それからですね」
「そう、僕が話すよ」
こう言ってだ、そのうえでだった。
甥はまずはトカイを用意してもらった、そして他にも彼の好物であるチーズマカロニも使用人達に作ってもらった、その二つを持ってだった。
自室で怒りながら作曲をしている彼にこう言った。
「叔父さん、差し入れです」
「ワインか」
「トカイです」
「安いものか」
ここでベートーベンは甥に問うた。
「トカイといっても」
「勿論です」
「ならいい、美味いものは芸術に貢献するが」
「贅沢なものはですね」
「よくはない、それに溺れるなぞだ」
持ち前の気難しさを出して言うのだった。
「あってはならない」
「だからですね」
「安いものでいい、それは食事も同じでだ」
酒だけでなくというのだ。
「肉や魚はいいが」
「あとスープですね」
「生卵を入れたな、だが」
それでもというのだ。
「貴族達の様な贅沢な美食はだ」
「よくないですね」
「私はそうした食事を軽蔑する」
ベートーベンはこうまで言った。
「美味いものは好きだがな」
「ではマカロニは」
「素敵なものではないか」
「そうですか」
「では頂こう」
「はい、そういえばお昼は」
「まだ食べていないのだ」
そうだったというのだ。
「今はどれ位だ」
「十二時半、いえ一時前でしょうか」
「では遅いが昼食にしよう」
「そうされますね」
「マカロニでな」
「あとパンもありますが」
「貰おう」
そちらもというのだ。
「すぐに持って来てくれ」
「それでは」
甥は頷きそしてだった。
彼と共に食卓についた、ベートーベンは自室で食べはじめ甥も付き合った、彼は既に食べていたが叔父に怒っている訳を聞く為にそうした。
ベートーベンはマカロニにパン、その二つを食べた。幸いにしてマカロニは大量にあり彼が食べる分は充分にあり甥も食べられた。
そしてデザートに叔父が好きなケーキが出たところで甥は尋ねた。
「叔父さん、いいでしょうか」
「何だ」
まだ不機嫌だが幾分それがなおっている目での返事だった。
「一体」
「今朝何かありましたか」
「恐ろしいことがあった」
「といいますと」
内心大したことではないだろうと思いつつだ、甥はさらに尋ねた。
「一体」
「私の運命、非常に悪いそれを感じたのだ」
「といいますと」
「私は毎朝コーヒーを飲んでいるな」
朝食の時
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