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戦国異伝供書
第六十九話 善徳寺にてその六
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「どうにも」
「そう言われるとは」
「謙遜でなくな、では駿河に戻れば」
「その時はですな」
「暫く休んでな」
「そのうえで」
「今度はじゃ」
 まさにと言うのだった。
「今川家、武田家、北条家でじゃ」
「三つの家で盟約を結び」
「後ろの憂いを完全になくすぞ」
「それでは」
「そうなれば武田殿はまた長尾殿に向かい」
 今は和睦したがというのだ。
「彭城殿は関東に向かわれる」
「当家には間違ってもですな」
「来ぬ、だからな」
 それでというのだ。
「我等は上洛出来る、朝比奈殿に留守をお願いし」
「一万五千の兵を置き」
「出陣じゃ、しかし出来れば」
 ここで雪斎はこんなことも言った。
「今川家の頼りになる方にな」
「駿河に残って頂きたいですか」
「万が一に備えてな、しかしな」
「そうした方が」
「おられぬ、殿と彦五郎様に継ぐ方が」
「どの方も出陣され」
「こう言うのは憚れるが」
 実質的に今川家の執権である雪斎にしてもというのだ。
「若し本陣で何かあり」
「今川家の方々にですな」
「何かあればな」
「その時は」
「もう朝比奈殿と一万五千の兵がおられてもな」
「今川家はご当主不在となり」
「終わりじゃ」
 そうなってしまうというのだ。
「駿河、遠江、三河は空き地となる」
「主のおらぬ」
「そうなってしまえばな」
 それこそというのだ。
「もう草刈り場じゃ」
「どうにでもなりますか」
「兵を進めれば進めただけな」
「その家のものになりますか」
「そうなってしまう、そうならぬ為にも」
「次の戦では」
「そなたが拙僧と共に先陣を務め」 
 そうしてというのだ。
「織田家をすぐに降すか」
「それが一番ですか」
「うむ、ではな」
「その時は」
 元康は雪斎に応えた、そうしてその夜は彼と自身の家臣達と共に酒を楽しんだ。それからも信濃を南に戻ってだった。
 遠江から駿河に戻った、その後は暫く休み領内の政と上洛の用意をさらに進めていったがまた雪斎が彼に声をかけてきた。
「ではいよいよじゃ」
「これよりですな」
「善徳寺に入りな」
 そうしてというのだ。
「そこでじゃ」
「三家の盟約をより確かにする」
「そうするぞ」
「いよいよその時が来ましたな」
「これが拙僧の外の政の最後の一手じゃ」
 まさにそれだとだ、雪斎は元康に話した。
「これがな」
「では」
「お主も家臣の者達もな」
「この度もですな」
「ついて来るがよい」
 こう言ってだった、雪斎はこの度も元康主従を連れてだった。
 そうして駿河の善徳寺に入った、ここでだった。
 元康は晴信だけでなく彼に従う山本勘助に北条氏康と彼の叔父であり今川家の政において重要な立場にある彭城幻庵と会った。
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