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曇天に哭く修羅
第一部
人か、鬼か
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「敢えて時間をかけてるね」

「【異能】も【超能力】も出してない」

「普通に戦るだけで十分だからな」


立華紫闇(たちばなしあん)》と《江神春斗(こうがみはると)》の戦いを眺めていた《黒鋼焔(くろがねほむら)》、《的場聖持(まとばせいじ)》、《エンド・プロヴィデンス》は両者の実力差から紫闇に勝ち目が無いことを判っていた。

それでも焔は現時点で紫闇を春斗と戦わせることに意味を見出だしている。

春斗の戦闘情報を集めるというだけではなく、紫闇が身を以て春斗の強さを味わい心を揺らがすこと無く居ることが出来るかどうか。


(そういう部分も見てるからね)


当の本人達はというと、春斗が吹き飛ばした紫闇の姿を見ながら両腕を垂らして一息ついている。


「どうする立華紫闇。まだ戦るか?」


紫闇が床に手を突き上半身を浮かす。

その顔は牙を剥くように笑っていた。


「へっ、ここからが本番だぜ。『今の俺』じゃあ無理なのは解ってる。どうしようもない。けど『別の俺』ならこの状況が変わる」


紫闇は左手の中指を右手の親指で押さえた。


「焔さん。あれってルーティーン?」


聖持が尋ねたもの。

それは特定の活動を行う中で自分の行動に自然と組み込まれることにより、普段の限界を超えたパフォーマンスを発揮する為の動作。


「江神春斗……。俺は黒鋼で修業したこの一月半負け続けた……。何度もな……。弱音を飲み込んで諦念を跳ね除けてきた。その末にかつての自分を殺して乗り越えたんだ……。俺はお前に並ぶ為に地獄の底から這い上がってきたんだよッッ!!」


血まみれで叫ぶ紫闇は右手の親指に力を込めることで左手の中指を鳴らす。

関節のバキリという音が響いた途端、過去の記憶が、修業で[禍孔雀(かくじゃく)]を会得した時の記憶が紫闇の脳裏を(よぎ)る。


(あの時の俺は強くて恐ろしかった)


紫闇は自身の根幹から黒い狂気が噴出し、真っ当な心を染めるのを感じたが拒絶しない。

有るがままに受け入れる。


「ふぅぅぅぅぅぅぅ……」


紫闇の【魔晄(まこう)】はみるみる内に普通の銀色から黒色に変色していく。


「黒って言うよりどす黒いな」


エンドの指摘した通り。

同じ黒でも邪悪さを放つ。

そんな紫闇はまるで生まれ変わるように(うな)りながら立ち上がってきた。


(空気が違う。あれだけの傷でダメージが無いかのように振る舞えるとはな。これが奴の、立華紫闇という闘技者の抱えている『鬼』か)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


紫闇は折れた鎖骨が有る部位を撫でながら面倒臭そうにぼやき始める。


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