第六十八話 上洛に向けてその六
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「しかし」
「それでもじゃな」
「具足の質はよく鉄砲は多く槍は長く」
「武具はよい」
「その分強く将帥が揃っています」
「これは異朝の言葉であったな」
元康は服部に応えて話した。
「羊に率いられた羊より狼に率いられた羊の方が強い」
「さて、羊とはどういった畜生か」
大久保彦左衛門は知らなかった、このことを。
「存じませぬが」
「そういえばそうであるな」
元康もその通りだと応えた。
「本朝におる家の畜生は犬に牛、馬か」
「豚は薩摩におるとか」
こう言ってきたのは石川だった。
「ですがどうも」
「本朝の殆どの場所にな」
「殆どいませぬな」
「わしは羊や豚は書で読んだが」
それでもとだ、元康は石川に話した。
「しかしな」
「そういった畜生はですな」
「知らぬ、干支にもあるが」
羊はというのだ。
「それでもな」
「羊は見たことがありませぬな」
「豚もな、ただ豚は」
この畜生はとだ、元康は石川にこうも話した。
「猪を家で飼うものであるからな」
「そう考えますと」
「まだ豚はある」
この獣はというのだ。
「知っておる」
「左様ですな」
「猪ならよく山で見るしのう」
「狩りまするし」
「食ったこともある」
その肉をというのだ。
「だからな」
「豚はまだわかりますな」
「しかし羊になると」
「どうしてもですな」
「わからぬが異朝にはそうした言葉もある」
羊に率いられた羊よりも狼に率いられた羊の方が強いという言葉がというのだ。
「そして織田家はな」
「今は、ですな」
「兵は弱いが」
「将帥が揃っている」
「家臣の方々がな、特に気になるのは」
その織田家の優れた家臣達の中でもというのだ。
「柴田殿、丹羽殿、滝川殿それに木下殿か」
「木下殿ですか」
「うむ、足軽からな」
即ち百姓あがりからというのだ。
「とんとんと上がって今は侍大将という」
「足軽から」
「随分と身軽で頭の回転のよい方だとか」
「ううむ、織田家にはそうした御仁もおられますか」
鳥居は羽柴の話を聞いて神妙な顔になり述べた。
「それはまた」
「その御仁もおるしな」
「強いですか」
「そう思う、その織田家と戦うなら」
そう決めたならというのだ。
「相当に用心せねばな」
「負けるのがこちらですか」
「そうなる」
「そこまでとは」
「何度も言うが今の織田家は先代の方の時よりも遥かに強い」
信長の代になってというのだ。
「だからな」
「戦う時は」
「まことに用心し」
「そしてですな」
「戦わねばなりませんな」
「そうなる」
元康は己の家臣達に述べた。
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