第六十八話 上洛に向けてその二
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「急であるが」
「それがしもですか」
「ついて来てくれるか」
穏やかな声で誘いをかけた。
「そうしてくれるか」
「宜しいのですか」
「そなたの見識を広めることになると思ってな」
それでというのだ。
「声をかけたが」
「では」
「うむ、それならな」
来るのならとだ、雪斎は笑って話した。
「ついて参れ」
「それでは」
「出来ればな」
ここで雪斎は元康にこうも話した。
「お主の家臣のうち何人かもな」
「供にですか」
「連れて来るがいい」
「それで政をですか」
「外のそれをな」
政は政でもというのだ。
「学ばせるのじゃ」
「そうせよと」
「そなたの家臣達は優れ者が多い」
それでもとだ、雪斎は言うのだった。
「忠義に篤く武に優れている」
「しかしですか」
「うむ、内の政も出来るが」
それでもというのだ。
「外はどうか」
「そこがですな」
「弱い感じがするからな」
だからだというのだ。
「知っておくべきと思ってな」
「それで、ですか」
「実は長尾家とのことだけではない」
「さらにですか」
「そこで武田家に恩を売り」
そしてというのだ。
「そこから武田家、北条家とな」
「三つの家で、ですか」
「盟約を結び」
「完全に後ろを安心できる様にし」
「そしてじゃ」
「上洛の兵を動かすので」
「だからじゃ」
そのことを見据えてというのだ。
「三つの家の盟約を結んでな」
「盟約を揺るがないものにする」
「さすれば万が一、織田家との戦に敗れても」
そうなってもというのだ。
「大丈夫じゃ」
「そこまでお考えとは」
「三つの家で結ぶと」
「一つの家が反しても」
「後の二つの家が対するからな」
そうなるからだというのだ。
「おいそれとはいかぬ、そして」
「それだけの盟約ならば」
「若し織田家に全軍を失うかそれに値するまでに敗れ」
そしてとだ、雪斎は元康にもこのことを話した。
「殿と彦五郎様に同時に何かある」
「そうした事態にならぬ限りは」
「大丈夫じゃ、その様な事態になれば」
「もう今川家はなくなっていますな」
「ご当主と跡継ぎ様に何かあれば」
「もう家が」
「ましてこの度の戦は今川家中の方々もほぼ全員が出陣される」
そうした戦になっているのだ、義元は上洛した時に今川家の者達で都を治める為に彼等も連れて行くのだ。
「そうなればな」
「尚更ですな」
「流石にそうは有り得ぬしな」
「そうしたことにならぬ限りは」
「盟約は確かじゃ」
「だからですな」
「そこまでのものにする」
万全、そう言っていいものにというのだ。
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