ターン19 幕間の妖狐
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たのが鼓だったならば、彼女はそうして眉一つ動かさずに合理的な判断を下せただろう。
しかし、それでも。まだ糸巻には、わずかに迷うだけの理由があった。
「アイツがなあ、どうなるか」
これもまた、言うまでもなく鳥居のことだ。ただ心が折れて傷を負ったというだけならまだしも、今の彼はそれに加えて目先の怒りと復讐心に囚われたせいで明らかに視界が歪んでいる。そんな状態で自分と巴が手を組んだなんて話が耳に入った時、ただでさえボロボロになり、危うい均衡の元に成り立っている彼の精神にその事実はどれほどの悪影響を生むだろうか。
彼女の勘は、今この瞬間こそが彼女たちにとって決定的な分岐点になると告げていた。しかしそれは何百何千、下手をすれば万単位の人々の安全と、鳥居浄瑠というたったひとりの男を天秤にかけろという話に等しい。彼女がどれだけ苦しみ悩もうとも、結局のところ結論など最初から決まっているのだった。苦い顔で重い口を開き、予定調和の言葉を絞り出す。
「……わかったよ。お手手つないで仲良くなんざなる気はないが、今回ばっかしは仕方ない。利害の一致だ、手を組もうじゃねえか」
それを口にした瞬間、もう後戻りはできないという思いがその心に重くのしかかる。しかしいくら必然の回答だったとはいえ、それを答えたのは他でもない彼女自身なのだ。
「ええ。貴女なら、そう判断すると思っていましたよ。結局、ご自分の部下のことは裏切るんですよね?懐かしのあの時のように」
含みのある笑みに露骨に嫌な顔をし、しかし何も言い返さずに目を背ける糸巻。そんな彼女の反応をそれとは対照的に楽しげな表情で眺めた巴がでは、と彼女たちに背を向けて、歩き出す寸前にその懐から1枚のメモ用紙を取り出した。
「失敬、大切なことを忘れていましたよ。こちら、今回の件が終わるまでの私の連絡先です。それでは、またお会いしましょう」
その手を離れたメモ用紙はひらひらと宙に舞い、それを鼓が空中で捕まえる。一方の糸巻はその背中が見えなくなるまで、じっと巴の去った方角を見つめていた。
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