ターン19 幕間の妖狐
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ホテルに帰ってないそうです」
「お、おう。そうか、悪いな」
その3人目の男は、名を鳥居浄瑠といった。しかし本来、彼もまた先日のカードの精霊事件で受けた怪我が完治しておらず、リハビリ真っ最中の身の上なはずである。当然直属の上司である糸巻も、いくら被害者が彼の知己とはいえ……むしろ知己だからこそ、間違っても彼をこの場に呼びつけて仕事を手伝わせる気などなかった。なんなら、この事件のことすらも彼には可能な限り隠し通しておこうとさえ思っていたほどである。
にも拘わらずそんな彼が自分の体のひどい状態を押してこの場に来ていたのには、あるシンプルな理由があった。それに初めて気が付いたとき、糸巻は思わず天を仰いで呻き声を漏らしたものだ。
「にしても、あの一本松先輩が……驚きましたよ糸巻さん、なにせ真夜中にいきなり急患だってんで飛び込んで来たのが、もう10年以上会ってない先輩だったんすから」
「だろうな!」
同じ病院への搬送という、馬鹿馬鹿しいほどにシンプルな理由。しかし考えてみれば、それは必然でもあった。そもそも一本松自身が鳥居の入院する総合病院に近いという理由から一夜の宿を選び、そこに戻る途中で襲われたのだ。当然、担ぎ込まれるとしたらその場から一番近いその場所に決まっている。
「じゃあ俺、ちょっと監視カメラの映像洗ってきますわ。さっきここの管理人にも電話して今すぐ管理棟の鍵持ってこいっつっといたんで、そろそろこっち着くと思いますんで」
「ああ、わかった」
包帯をあちこちに巻き付け、松葉杖に頼らねばまともに歩くことすらおぼつかない体。エンターテイナーとして、演劇デュエリストとして、舞台を駆けまわっていた彼と同一人物とは思えないその後ろ姿を見送りながら、鼓がポツリと呟いた。
「私はあの男とは初対面だが、控えめに評してもひどい有様だな」
「安心しろ、アタシも同感だ。巴のアホに叩きのめされてだいぶ精神的に参ってた矢先、今回のこれだからな。今はブチ切れてんのと復讐心だけでどうにか前向いてるが、正直かなりヤバい。絶対こうなるのは目に見えてたから、アイツには知らせたくなかったんだよな」
不満げに唸るが、すでに彼がこの件に首を突っ込んでしまったという事実は覆らない。今すぐ病院に帰れと怒鳴りつけたところで、はいそうですかと素直に言うことを聞くような男でもない。そもそも、彼女らだけでは人手が圧倒的に足りていないのもまた事実。もはや動き始めてしまった歯車は、どうすることもできはしないのだ。
やりきれない思いで近くのベンチに腰掛け、いつも通りに煙草に火をつける。目撃者も証拠もない雲を掴むような現場捜査に嫌気がさしてきたというのもあるが、それでもここまででどうにか確認できた情報を整理したかったというのもある。
「被害者、一本松一
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