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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
緋神の巫女と銀氷の魔女《デュランダル》 T
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ホルスターに伸ばしかけていた手を引き込める。そうして取り出したのは、バタフライナイフだ。
無音で開かれたその刀身は、非常灯の赤を歪んで映している。
このナイフは構造上、音が出やすい。潜入に使うのには不向きなことを理解していながら、キンジはそれを用いるつもりだ。

音が出るといっても、不用意に振り回したり、振動させなければいいだけの話ということを、彼は理解していた。
かつての兄と、刀剣の腕に定評があると強襲科内でも有望の、如月彩斗の知識。2人の享受は無駄になっていない。

慣れた手つきでナイフを構える。息を潜めながら、弾薬棚のその向こうを見るために、刀身を即席の鏡にした。
……あいにく、光の加減で見えにくい。それでも、しっかりと目視できた光景を把握したキンジは、小さく息を呑んだ。


「──ッ」


視線の数十メートル先だろうか。彼女を取り囲む非常灯は、さながらスポットライトのようだった。妖しくもあり、艶しくもある──そんな艶美さを醸し出しながら、星伽白雪は立っていた。

その向こうに、キンジはまた1人の気配を感じた。白雪が見据えている視線の先。そこに居る者こそが──、


「来ましたよ、《魔剣》。居るのでしょう。姿を見せて」
「……どうやら怖気付くことはなかったらしいな、星伽よ。ただ、その要求に応えることは些か不可能だ」
「何故ですか。あなたの要求は私でしょう? ……来るなら来なさい、韜晦(とうかい)ばかりの卑怯者!」


非常灯の灯らぬ一層の暗闇に向かって、白雪は一喝した。
そうして僅かな沈黙の後に、その暗闇の内から響き渡る冷淡な声は、底知れぬ深淵の淵を覗き込んだかのような──近しく喩えるならば、夕冷えにも似たあの感覚だ。


「貴様は、あの晩に交わした口約束を覚えているな?」
「それがどうしたと言うのですか」
(とぼ)けるつもりか? 笑わせるなよ、星伽」
「何を──っ、」


《魔剣》の嘲るような笑みが反響する。白雪が訝り、周囲を見回したのもほんの一瞬だった。
異変に気付いたのは、それと同時か。唸りにも似た風切り音が、彼女の頬を刈り取ってゆく。

しかし、《魔剣》の狙いは白雪ではなかった。異形の鎌は刹那にして、弾薬庫の隅で様子をうかがっていたキンジの頬をも掠めてゆく。紅の鮮血は金属を染め、痛覚はとめどなく襲い掛かる。


「……ッ!」


いつから露呈(バレ)ていた?
そんな懐疑心が、キンジの胸中を痛覚と共に駆け巡る。


「キンちゃん、居るなら逃げて!」


悲痛な叫びが木霊した。
白雪の瞳にキンジは映っているのだろうか。それは彼からは分からなかったが、薄々と感じ取られていたのだろう。


「武偵は超偵に勝てない!」
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