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戦国異伝供書
第六十七話 元康初陣その三

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「初陣なので」
「それはわかっておる」
「そうですか」
「しかしな」
「それでもですか」
「そなたの将兵の配を見るとな、そして」
 ここで雪斎は自分と元康の間にある地図を見た、そこにある両軍を表している駒の動きと彼の布陣を見てさらに言った。
「その布陣もな」
「よいですか」
「これならばな」
 まさにと言うのだった、こちらでも。
「何も言うことはない」
「そうなのですか」
「後は戦ぶりを見せてもらう、確かにそなたの言う通り織田弾正殿には勝てぬであろうが」
 信長、彼にはというのだ。
「あの御仁は拙僧が見てもな」
「恐るべき方ですな」
「そして家臣もな」
 信長の下にいる彼等もというのだ。
「勇将智将が揃っておる」
「はい、戦でも政でもです」
「見事な御仁が揃っておるな」
「だからです」
「この布陣と将兵の配でも数が足らぬ」
 だからだというのだ。
「これは勝てぬ」
「左様ですな」
「しかしな」
「この度の戦では」
「間違いなく勝てる」
 そうだというのだ。
「拙僧はそう確信しておる」
「では」
「存分に戦って参れ、そしてわかっておるな」
「三河から追い出せばいいので」
「深追いはするでないぞ」
 雪斎はこのことも話した。
「それもわかっておろう」
「はい、この度の戦は敵を三河から出し」
 元康は雪斎の今の言葉にも応えた。
「そしてです」
「領地と民を守ることでな」
「それが目的ですから」
「尾張攻めはせぬ」
「そこまでの兵は出していませんし」
「兵糧もじゃ」
 こちらもというのだ。
「そこまで持って来てはおらぬ」
「だからですな」
「ここはそれ位にしてな」
「敵が三河から出れば」
「それでよい、とはいっても」
 ここでだ、雪斎はまた言った。
「もう既にわかっておるな」
「深追いせぬことを」
「ならよい、拙僧は見せてもらうぞ」
 元康の戦ぶり、それをというのだ。
「よいな」
「さすれば」
 こうしてだった、元康は三河武士達を率いて今川の軍勢の先陣として敵に向かいそうしてだった。織田家の一千程の軍勢に対して。
 自身も一千の軍勢で対した、そのうえで織田家の青い具足と旗を見て言った。
「うむ、やはりな」
「弾正殿の軍勢ではない」
「そうだと言われるのですな」
「あの軍勢は」
「間違いない」
 まさにというのだ。
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