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戦国異伝供書
第六十七話 元康初陣その二

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「その様な者は」
「知らぬか」
「はい、闇の衣を着ているのは」
「百地家とであるな」
 雪斎も服部に問うた。
「そしてその下にいる」
「石川、楯岡、音羽の」
「三つの家の者達だけか」
「他の者は」
「そうか、では」
 それではとだ、雪斎は服部の言葉に頷いて述べた。
「津々木殿は」
「知りませぬ、偽名を使っても」
 そうしてもというのだ。
「我等はわかりますが」
「伊賀者だとだな」
「伊賀の忍なら拙者と家臣達の知らぬ者はいませんが」
 それでもというのだ。
「津々木殿の顔を知る者は」
「おらぬか」
「はい、全く以て何者か」
「勘十郎殿は織田家で極めて落ち着いて慎重な方です」
 元康は信行、元服してその名になった彼の幼名を出して話した。
「怪しい者を傍に、それも執権の様に置くことは」
「ないか」
「とても。それだけにです」
「この度のことはか」
「それがしもわかりませぬ、ですが」
「この度の戦はじゃな」
「はい、三河に入ろうとするなら」
 それならばとだ、元康は雪斎に答えた。
「退けます」
「そうしてくれるな」
「必ず」
「殿、ではです」
 本多が意気込む声で元康に言ってきた。
「先陣の名誉を当家に与えて頂いていますが」
「先陣の先陣をじゃな」
「はい、それがしに任せて頂けるでしょうか」
「平八郎、よく言ってくれた」
 元康は本多の申し出に微笑んで応えた、そうして言うのだった。
「ではじゃ」
「この度の先陣は」
「そなたに任せる」
 こう本多に告げた。
「頼んだぞ」
「それでは」
「そしてじゃ」
 元康は布陣をさらに告げていった、雪斎はそれを聞き終えてから元康に対して満面の笑みで述べた。
「何も言うことはない」
「左様ですか」
「それぞれに相応しい者を置いておる」
「適材適所がですか」
「出来ておる、三河者は生真面目な武辺者が多いが」
 その彼等をというのだ。
「それぞれの資質をしかとわかりそうして配しておるな」
「それが出来ていますか」
「これなら拙僧が言うことはない」
 何一つとしてというのだ。
「それこそな」
「ではこの度の戦は」
「何かあれば動くが」
 そうして助けるがというのだ。
「しかしな」
「それがしの働きをですか」
「しかと見せてもらう」
「ですがそれがしは」
 元康は雪斎の自分に対しての絶対の信頼を向けている言葉に対して恐縮を感じそのうえで彼に対して述べた。
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