I MY 模糊のヒーローショー
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響いて、即座に私の服に鋭い爪痕が走る。肩にうっすら滲む紅色。顎でツンデツンデのボールを示す。守ってもらえばどうだと言うように。
それでもわたしは、目をそらさなかった。
「……あのとき、自分の気持ちをちゃんと話せなくてごめんね」
斬撃。わたしの上着がちぎれて部屋の中に舞う。
肌着同然の姿になったわたしはもう完全に男の子を真似るのは難しいくらいには成長していた。
だけど、そんな事目の前のシルヴァディにとってはどうでもよかったはずだ。
「自分の気持ちが自分でもわからない、そんな人に従うのが嫌だったんだよね。シルヴァディに比べたら、自分が男か女か程度の事で悩むなんて、とてもちっぽけだと思う」
シルヴァディはウルトラビーストに対抗するポケモンであり、様々な生き物のキメラだ。獣であり、魚であり、機械であり、人のような知能がある。そんな存在に比べたら、人間の性別なんてあまりに些細なこと。
彼にとっては生き物として唯一明確なのはウルトラビーストの敵であることだけ。よりにもよってそれと共に従わされている。自分がなんの生き物なのかわからなくなっているのは彼自身だった。
「でも、わたしはもう迷わない。今のわたしは女の子で未熟だけど怪盗。あなたの存在はそんな未熟者がどうしようもなくなったときの最後の……とっておきの、シルバーヴァレット」
ピタリ、とシルヴァディがわたしを攻撃するのを止める。
「お願い、あなたにもう一度あなたの存在意義をあげる。わたしもいつかまた迷うかもしれない。でも、もうあのときみたいに誤魔化したりしないから。手を貸して。シルヴァディ」
我儘だ。だからこそわたしは協力してくれるスズやポケモン達、怪盗であるクルルクに応えなきゃいけない。第一予選なんかで負けられないし、ただ通過してチュニンをがっかりさせたままにもできない。そのために、シルヴァディが必要だから。血の垂れる手を伸ばす。
シルヴァディは応えることなく……ボールに戻って目を閉じてくれた。それは、わたしの所にいてくれるということ。
「……ありがとう」
ルカリオが『いやしのはどう』を使ってわたしの傷を治してくれる。そこでわたしの意識は、ゆっくりと起こされた。
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