第六十六話 婚姻と元服その十一
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「その吉法師殿の主な家臣の方がか」
「柴田殿、林殿、佐久間殿といった」
「重臣の方はじゃな」
「近頃頭角を表しておられるという丹羽殿や滝川殿も」
そういった者達もとだ、また服部が話した。
「出ておられませぬ」
「そうなのか」
「どうも弟君がです」
「勘十郎殿がか」
「不穏な動きをされておるとのことで」
「吉法師殿もか」
「今はそちらを警戒されて」
「三河に来ようとしているのは」
その者はとだ、元康は服部に問うた。
「わしはそれは知っておるが」
「織田弾正家の兵ですが」
即ち信長のというのだ。
「その弟君の」
「勘十郎殿のか」
「兵がこちらに色気を出してのことです」
「そうなのか、しかし勘十郎殿がか」
元康は服部から織田家の内実を聞いて袖の中で腕を組んだ、そうして怪訝な顔になりこうしたことを言った。
「吉法師殿にか」
「その様です」
「勘十郎殿は吉法師殿を慕われ」
「片腕の様にですな」
「なられておると聞いたが」
「どうも近頃津々木という御仁が傍に出て」
そうしてとだ、服部は述べた。
「弟君に何かと」
「それでなのか」
「どうやら」
「ふむ。その津々木という者気になるな」
ここまで聞いてだ、元康は怪訝な顔のまま述べた。
「一体何者か」
「氏素性は一切知れぬとか」
「そこも気になるな」
「この戦国の世ではままありますが」
ここで井伊が言ってきた。
「しかしその御仁は」
「お主も知らぬな」
「この辺りで津々木という名の家は」
どうもというのだ。
「聞いたことがありませぬ」
「わしもじゃ」
松平家の筆頭家老と言える酒井もこう言うばかりだった。
「その様な家はな」
「それがしもです」
榊原もだった。
「その様な御仁は」
「津々木。どうも」
忍の者である服部もだった。
「聞いたことがありませぬ」
「誰か知っておる者はおるか」
元康は他の家臣の者達に問うた。
「津々木という御仁を」
「津々木蔵人といいますが」
服部は下の名も話した。
「この御仁は」
「聞いたことがない」
「その様な御仁は」
「どの家にもいたかどうか」
「この辺りに」
「上方でもおらぬのでは」
「聞いたことがありませぬ」
誰もがこう言う、そしてだった。
元康は雪斎にもこの者のことを聞いたが雪斎もこう言うばかりであった。
「さて。聞いたことがない」
「和上もですか」
「上方でも北陸でも関東でもな」
その様な者はというのだ。
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