第二部まつりごとの季節
第二十一話 馬堂家の人々
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!!実仁親王殿下とか!」
祖父が目を剥く。
「――粗相をした覚えはありませんよ」
豊久は、目をそらしながら露骨に話題を変えようとする。
「それより、ほら。私は一年ぶりの皇都なのですから何か変わった事はありませんか?」
軍務から日常へと話題を移し、ゆっくりと時間を過ごした。
四月二十九日 午前第六刻半 馬堂家屋敷内 豊久私室前
馬堂家 使用人 柚木 薫
将家の使用人の朝は早い。何故なら軍人が大半の将家の人間は基本的に午前五刻には目を覚ますからだ。使用人たる者、主達が目を覚ます前に食事を終え、一日の準備をせねばならない。
そして、馬堂家の使用人の朝は更に早い、そして忙しい。他家の使用人の経験者でも音を上げる者がいるほどだ。何故なら家格と懐事情、そしてそれに伴う煩雑な諸事の量から考えれば馬堂家の雇う使用人の数は少ないからだ。
尤もその馬堂家の使用人は質が高い。読み書き計数、礼儀作法は当たり前、更に厳しい身元の審査と家令頭の面接を合格してようやく正式に雇ってもらえる。
馬堂家は往年の政治的魔術師、駒城篤胤の薫陶を受け皇都中に情報網を巡らせている人間が当主の家だ、人を選ぶのは当然だろう。
「さて、と昨日は辺里さんがつきっきりだったけど、若様の御機嫌は麗しゅうございますかね?」
そう云いながら豊久の私室の前に立つ柚木薫も皇室史学寮の博士の父親の推薦で十七の頃に雇われてから六年近くこの屋敷に住み込みで働いている。髪を簡素に結っており、顔立ちも整っているのだが物腰と合わせて色気よりも気風の良さが感じられる。
「豊久様――お目にかかるのは初めてですね」
石光元一、二十歳前の青年である。動員が進む前に兵役の経験がある使用人数名が駒州へと戻ってしまった為、春から新しく雇われた新人である。
「しかし、将家の御方は朝が早いと聞いていましたが」
「休みの日は起きたがらないの、休みの朝は大殿様達が組み手をやってるでしょ?
あれを嫌がっているのよ。幼年学校の訓練並みにキツいって言っていたわ」
――私が前に覗いた時は噎せ返る様な汗と……いや、思い出すまい。
豊守様は『父子の絆を深めたいのは山々だが膝に矢を受けてしまってな・・・・』と言って逃げており、いたって健康、かつ現役士官の豊久様は大抵連れ出されている。
「はぁ、僕は軍役経験が無いから想像できませんが、それで引き籠っているのですか?」
胡乱な目で寝室の扉を見やる。北領の武勇伝を聞いて想像していた偶像が砕けているのだろう。
「そう、まぁ今日くらいは大目に見てあげましょう。さすがに疲れているのかもしれないし」
そういいながらも半眼で扉の先を見つめている石光に警告する
「豊久様ってあれで意外と偏屈者だし、変なことを言わないほうが良いわよ。
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