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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第二十一話 馬堂家の人々
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では無い新型短銃だ。全く豪勢な事だ、蓬羽もお前に目をつけているという事だろうな」
 豊守が愉快そうに目を見張って短銃を見つめる息子を見やる。
「これは、お前が大尉に昇進した時に作らせたものとも違うな」
 豊長が唸る様に言う。
 ――あの燧石式輪胴短銃(フリントロックリボルバー)の事か、確かに全然違うだろう。
豊久はささやかならざる興奮に手を震わせながら説明書きに猛烈な勢いで捲り、目を通す。

 玉薬を輪胴内の薬室に注ぎ、玉を込める形式は変わっていないがそれ以外は別物だ。
まず薬室の後部の仕切りの間に爆栓を取り付け、それを叩槌で叩く事で爆破させ、発砲させる。
銃身には施条が施され、有効射程は約三十間、騎兵銃と同程度だ。
叩槌を起こすと輪胴が回転するので射撃速度は小銃の比では無い――六発までの話であるが。
輪胴を回し、銃身の下でレバーの様な仕組みになっている槊杖で突き固め、爆栓を後ろに取り付ける。これを六回繰り返すのだ、乱戦中に再装填は困難だろう。それに、この爆栓も普通には手に入らない。
 ――弾薬は蓬羽から買うしかないようだ、ちゃっかりしているよ。

「実際に購入していたらあの時以上に金が飛んだでしょうね。
ほら、お前も説明書きより実物を先に見なさい。随分と手の込んだ装飾まで施されている」
そういいながら豊守も興味深そうに眺める。
銃把には今回の戦で俺が受勲した陸軍野戦銃兵章と馬堂家の家紋が彫られている。
「おや、これは――豊久、その説明書きを見せてくれ。」
 目についたのか爆栓を手に取り、豊久が渡した説明書きに目を通す。
「何だ、お前、見覚えがあるのか?」
 豊長も目敏くそれに気がついた。
「はい、父上」
 手の上で爆栓を転がしながら軍政・兵站の専門家が解説を始めた。
「これ自体は四年前に試作の新型小銃の実包として試作されている物の部品の一つです。その小銃は蝋紙や樹脂で弾丸、玉薬、そしてこの爆栓を一体化させ、叩槌で針を叩き、爆栓を爆破させて発射させる形式だそうです。
そして装填の簡易化によって射撃速度を高める革新的な小銃、と自慢していました。
新型の施条砲と共に今年中に軍に売り込む予定だそうです」
 ――ほう、それは良い知らせだ、が。
「肝心要の信頼性はどうなのですか?
四年前に作られていたのならばこの短銃にも組み込まれていても良さそうなものですがね」

「暴発事故こそないが、打針が脆くなってしまうらしくてな。
八十発はもたせられる様になったから漸く売り込みの準備をしている。
――実用化したのはつい先日なのだ、お前も贅沢を言うな。」
 豊守が苦笑する。
「惜しいですね。玉薬を風雨に晒さないで使えるだけでも素晴らしく魅力的です。雨天時に導術と合わせれば圧倒的な優位を得られるでしょう。

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