暁 〜小説投稿サイト〜
或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第二十一話 馬堂家の人々
[3/8]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
らしてみればやむを得ないことなのかも知れない。東州内乱時、大尉として出征した豊守はそこで所属していた輜重隊が半壊し、自身も前線に立てる体ではなくなり、後方勤務に専念している。――そして、あっさりと初孫に死にかけられた所為で不安になったのだろう。

「まぁまぁ、御祖父様、大丈夫です。軍人を辞めたりはしませんよ。
――と、言いますか私をそこまで無責任だと思われるのも心外です。」
「ここまで厄介事を儂等に押し付けたのだ、そう思われても仕方ないだろうに」
 にやり、と不敵な笑みを浮かべた時には、既に〈皇国〉憲兵の父にして、やり手の政治屋である馬堂豊長退役少将に戻っていた。

「――申し訳ありませんね。それではついでに、押し付けていたものを一つ、例の件はどのようになりましたか?」
「うん?どの例の件(・・・)だ?」
 祖父が楽しげに記憶を探るのを見て豊久は苦笑しながら言葉を継ぐ。
「出資関連の話です。蓬羽兵商に金を出していましたよね?
確か面白い砲の開発が進んでいると手紙をくれた筈でしたが」

「あぁ、確か銃兵でも携行出来る鉄製軽臼砲の改良案だったな。
あぁ……うむ、二・三年前から取り掛かっていたらしいが、試射の際に砲身が破裂して死傷者を出し、それで開発が滞っていたようだ」
祖父の言葉に豊久は瞑目する。
 ――砲は強力だ。だがそれ故に扱いは丁寧に、慎重にしなければならない。幼年学校でも龍火学校でも砲の危険性は散々叩き込まれた、そうでなければ砲兵なぞ務まらない。新兵器も信頼性が第一であるべきだが――
「まぁよくあること、では困りますが、この時期に開発が滞る様では国がもちません。
実現すれば有用なのは確実です。私の大隊が行った陣地戦においても、敵戦列への砲撃に極めて有用なものになります」
「今まではそれでよかったからな。
匪賊や辺境の貴族が相手だったから勝つ事が当たり前だった。新兵器も必要性は薄かったのだから」
父も頷いてくれる。

「技術課は蓬羽にべったりですからどうとでもなりますね。
勿論、蓬羽が乗り気になってくれれば、の話ですが。
蓬羽の女主人――田崎千豊がアスローン旅行に熱心になっていたら困りますが」
「其方は問題無いだろう。
あの女傑は今の所、〈皇国〉で夫の墓を守るつもりらしい。一旦採用されたら後は豊守が面倒を見てくれるだろう」

「そうですね。父上なら安心です。」
 二人で信頼に満ちた笑みを浮かべる

「――まぁ確かに、それも私の仕事の範囲内だが」
 豊守が渋面を浮かべるのを無視して豊長はぽん、と手をたたく
「その蓬羽からお前に贈り物がある。辺里!あれを持ってきてくれ。」
 当主が声を上げると家令頭は素早く箱をもってきた。
「――失礼いたします、豊久様」

「これは――」
「燧石式
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ