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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第二十一話 馬堂家の人々
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った」
「――この時期にそれだと、ちょっと控え目に言って今年中は屋敷に帰るなと言われたようなものですね」
 兵部省の事実上の調整役である大臣官房総務課は兵部省の省令、法令案の作成並びに公文書類の審査、運用の調査及び研究。公文書類の管理全般、所掌事務に関する総合調整に関すること、衆民院及び他官庁との折衝から民間業者との契約事務全般まで渉外に関すること。そして動員や世論対策を担う広報と、いわば兵部省の顔であり舌である。そして理事官は課の次席であるため、有体にいって新任の准将がつくべき地位ではない。普通ならば陸軍局の参事官、部次長を経て着任するのが常識だ。
「父上が兵部省の要に居てくれるのならば他家の専横も少しは抑えられるでしょう。それはそれで心強いのですが」
 ――それでも軍令を掌握している軍監本部総長はあの宮野木家の一門の志倉大将だ。
俺も陪臣の例に漏れず主家以外は信用しないがあの家は格別だ。あそこの爺なら守原の方がまだ信用出来る。

 個人的な私怨があるのだろう。妙に偏見に満ちた思索を巡らせていると帰ってきて早々に軍の事で話し合っている孫を見て祖父が笑う。
「あまり、軍務にかまけるな。 視野を広めないと後でとんでもないことになるぞ?」
 
「――そうですか?」

「当たり前だ、大体お前は大事な相手に挨拶を忘れている。
――この大馬鹿者め」

「――あぁ」
祖父の厳しい目線に晒された豊久もぐしゃり、と伸びた髪をつかみ呻いた。

 部屋に女性が二人、入って来た。
「御祖母様、母上、ただいま戻りました。――遅くなって申し訳ありません」
 立ち上がって礼をする。

「武勲を上げ、そして生きて帰ってきた。
これ以上の事はありません。良く帰ってきました」
 祖母である真佐子が相変わらず矍鑠とした姿勢で話す。
「貴方が無事だったのなら十分よ。お帰りなさい、豊久」
そして、実の母である馬堂雪緒が優しい笑みを浮かべている。

「――ええ、無事です。御心配おかけしました」

「さて、主家に倣って久々に皆で食事をするとしようか」
 父が心の底から楽しそうに言った。


同日 午後第一刻 馬堂家上屋敷 喫煙室
馬堂家嫡男 馬堂豊久


「で、北領はどうだった」
 食事を終えて、黒茶の豆を挽いた物(珈琲に似ている)で一服していると祖父が急かす様に話かけてきた。
 四半世紀ぶりの大規模な会戦に撤退戦だ――自分の孫がその際にした事も含めて話が聞きたいのだろうが。

「今だから素直に言いますが、当面はあまり話したくないです。
できれば父上が見るであろう報告書だけで勘弁してくださいな」
 こちらの返答に、祖父は困ったようにそっぽを向く。
――普段と大違いだな。
と豊久は苦笑するが、祖父である豊長か
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