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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第二十話 季節は変わる
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、特に思うところは無いようです。
他家とは接触せずに西州鎮台の軍への再編の用意をしています。
安東は――いぇ、寧ろ海良と言うべきでしょうね」
 海良――東州公の奥方の家である。
「フン、あの家は女が強いからな。
まぁ駒城も強いが政治にまで口を出させるのはあの家位だ。」
 篤胤は露骨に鼻を鳴らした。
 女が当主を務めた事もある家だけあって駒城も女性を尊重するが安東の様に主導権まで握られる事はない。
「えぇ、まぁその海良の大佐が執政府や軍監本部へ熱心に通っているそうです。
まぁ何が利になるのかを調べているのでしょう」

「あの家も変わらんな。目先の利に釣られて東州で家を潰しかけても改まらんか」
 東州は最後の鎮台が軍へと改組される内乱の戦場となり、そして戦禍で荒廃した所を報奨として皇家は与えようとした。
復興に掛かる費用を考え、駒城・守原・西原・宮野木は辞退したが、安東は飛びつき――家を傾かせかけた。
「この十年、あの家がもったのは奥方が計数に強い故ですから。奥向が強くなるのも無理はないでしょう。」
 保胤も苦笑を浮かべる。
「先代が酷かったからな。奴がマシだったら話も違ったかもしれないが。用向きはそれだけではなかろう?」
 そう言って自身の一粒種を見る
「えぇ馬堂の世継ぎ――豊久君が帰ってきます」

「あぁ、あの若者か、どれ数年ぶりに会ってみるか」と篤胤は懐かしそうに言う。
「私は彼の奏上の機会を奪った形になったことが少々気がかりです。
駒城を割る切欠になりかねません。勿論、直衛と同等以上の待遇はしますが、
他家が何らかの形でそこに付け込んだ工作を仕掛けてくるでしょう」
 保胤は僅かに眉をひそめるが豊長は内心、肩をすくめた。
 ――確かに武官としては最大の栄誉だが。
「若殿、それは無いでしょう。手前味噌ですが、私の孫はそんな愚か者ではありません」
 豊長は胸を張って云う。
「うむ、儂が会った頃と変わって無いのならば問題ないだろう」
篤胤も顎を掻きながら同調する。
「代わりと言っては何ですが、実仁親王殿下に拝謁の機会を作ろうと思っています。」
保胤が生真面目に頷くと篤胤はぽん、と手を打った。
「うむ、ならばそれに儂も出張るとしよう。居するのも悪くは無いと思っていたが、此処にも政治の季節が回って来たか」



四月二十八日 午前第八刻 弓瀬湾 皇都付近 <畝浜>上甲板
独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊長 馬堂豊久


 懐かしい――町並が見える。懐かしい――匂いがする。
熱水機関の振動から避難を兼ねて見に来たが自分が意識する以上の郷愁がこみあげてきた。
 肩を叩かれると笹嶋が朗らかな微笑を浮かべて立っていた。
「さて、故国だ」

「故国――ですね」
 ――あの姫様の勧誘を蹴っ
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