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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第二十話 季節は変わる
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していた。
「大隊長殿は、内地に、いえ、故国に帰ったらどうなさるのですか?」
 杉谷は慎重な口調で尋ねる。
「ん?そりゃあ俺だって大隊の責任者だからな。
兎にも角にも大隊の後始末だ。その後は出来れば軍監本部に戻りたいが。
多分、駒州鎮台――いや、駒州軍だろうな。後は若殿様、いや駒城閣下次第だ。」
 予想以上に張りのある声が返ってきた。答えの中身でこの男が将家である事を改めて実感する。
「あぁ、安心しろ、これからは剣虎兵も鋭兵も需要は高まる。それに折角の縁だ、お前さん達の希望は馬堂の家名にかけて、ちゃんと通らせるさ――何処が良い?
西田。新城少佐は行く先がまだ決まっていないらしいがお前は新城少佐の後輩だったな、彼の下に行くか?」
 初めて馬堂豊久の優しげな声を聞いた両名は視線を交わし、苦笑を浮かべた。
「自分は――」


四月 二十六日 午後第八刻
駒城家下屋敷 馬堂家 当主 馬堂豊長


五将家の筆頭である駒城家の当主へと通じる扉を駒城保胤が叩くと、鷹揚な口調で返事が帰ってきた。
「永末か?」
「いえ、父上」
「失礼致します。大殿様。」
一礼して入る。
「おぉ、豊長も来たか。」
 だらり、とした姿勢で本を読んでいた駒州公駒城篤胤がは来客をみて姿勢を戻した。
その将家の長としてはだらしない姿は、忠良な老臣の顔に渋面を浮かべさせた。
「大殿。まだ駒州公であり大将なのですから、あまり遊ばないでください」
 往年の様に窘める豊長に篤胤は笑う。
「そう目くじらを立てるな。まぁだからこそ憲兵だったお前を引き立てたのだが――保胤、お前も世話になっただろう」

「えぇ、確かにそうです」
 保胤も素直に頷いた。二十歳以上離れているこの退役軍人は保胤が若手将校だった時代に軍政のイロハを教えた一人であった。

「まさか貴様に保胤の教育を任せるとは、出世したものだな?
酔っ払った瀬川達と乱闘して鼻を折ったお前が少将まで昇るとはな。」
 思い出したのか笑いを噛み殺している篤胤に、豊長が肩をいからせる。
「篤胤様!」
「父上、本題に入って宜しいですか?」
 呆れ顔で老人二人の言い争いを傍観していた保胤が軌道修正をする。
「直衛の奏上が決定打となり、夏季総反攻はほぼ完全に食い止められました。
ですが、守原と宮野木の連携がより深まりつつあります。
例によって宮野木と言っても清麿君の方は我関せずと云った様子で元大将の方が熱心に動いている様ですが」

「宮野木の老人も執念深いな、七十近いのに達者な事だ。西原と安東はどうだ?」
「大殿が言いますか」
 酔っ払いの喧嘩を仲裁した代償の鼻をさすりながら、豊長が呆れたように笑う。
保胤は、あなたもだよ、と言いたげに肩をすくめると状況説明を続けた。
「西州公自身は
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