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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第二十話 季節は変わる
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調だった。
「そういうものか。いや、私も自分が苦労したと思っている口でね。」
「統帥部戦務課の中佐と言うと軍主流の選良(エリート)とではありませんか。
――まさか、産まれた国が悪いとは言わないですよね」
今までとはまるで違う力のない笑みを浮かんでいる。
「まさか、違うさ――不幸自慢の悪癖を許してもらえるかな?
私は、西領の産まれでね。父は回船の船主兼船頭だったのだが、天領の経済発展に押されて無理をした挙句に事故死してしまったんだ。幼い頃の話だが荷主への賠償だけでも相当だったらしい。恰幅の良かった母も僅か五年で木乃伊の様に細くなって死んでしまった、私と兄を養う為に働きすぎたんだ」
 腹の底にある鬱屈そのままの暗い声が自分の口から吐き出されるのを自覚し、笹嶋は口を閉ざした。
「・・・・・・御立派な御母堂だったのですね」
 そう言った将家の嫡男は軍帽を目深にかぶり、その表情は読めない。
だが何となくそれが先を促しているのだと感じ、笹嶋は首肯すると再び語りだす。
「あぁ、そうだね。私は家族には恵まれた、それは確信を持って言えるよ。
母が亡くなった後、兄が私を養ってくれた。回船の下働きを始めて稼ぎの大半を私の生活、取り分け教育に費やしてくれた。
――勿論、生活は苦しかったよ。兄の熱心さが認められて勤め先で一番若い、雇われ船頭になった夜に始めて家の中で水晶瓶を見た位だ。
兄が危険な仕事を成功させて文字通りの一攫千金を成し遂げて始めてこの世の良い面を信じられた。
それまでは恨み辛みを帳面にぶつけていた様な物だったよ。あの頃は船乗りなぞ御免だと思っていたが、水軍に入ったのもそれが切欠かもしれないな。
兄は喜んでくれたよ、父を尊敬しているからね。私も矢張り親父の子なのだと、大層な喜びようだった――西領有数の回船問屋を手に入れた時よりもね」
 口に出していた暗いものを放り出すかのように細巻に火をつける。

「――笹嶋中佐」

「ただの笹嶋で良いさ、同じ中佐じゃないか」

「――笹嶋さん、私は――あなたの経験を理解出来るとは、言えません」
  その声に苦味が混じっている。彼が親しげにしていた駒城――主家の育預を思い出し、笹嶋は瞑目した。
 ――そうか、彼の産まれは。
「――成程ね。君は苦労する友人の選び方をしている様だな。
いや、君が好んで背負い込んでいるのかな?」
 自分で作ったような物だが、その重い空気を取り払おうと冗談めかして話題を変える。
「友人は選んでいますしそれなりに多いですよ。何故か厄介者も紛れ込みますが。」
 ――それも悪い事ばかりでは有りませんがね。
そう言って馬堂豊久は珍しく素直な笑みを浮かべた。
「――へェ」
 ――やはり戦場を離れると様々な面が見えるものだ。
「何ですか?」
笹嶋が
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