第一部北領戦役
第二十話 季節は変わる
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礼ですが、水軍は将家嫌いだと思っていました。」
意表を突いたのか馬堂中佐は驚きの表情を見せる。
「そうでもないさ、水軍は万民を平等に考える、少なくとも陸軍よりね。そして君は名誉階級に相応しい働きをした」
主流から外れた家が多いのは事実だが将家の人間も水軍には居り、馬堂中佐の云う将家嫌いは、水軍への偏見が混じったものである。もっともだからと言って公爵だろうと衆民だろうと名誉階級はそう簡単に与えられる物では無い。水軍が死地へと送り出した事への詫びだった。
「水・陸両方の中佐ですか、それは、珍しいですね。」
目尻を揉みながら中佐はその価値を量るかの如く、考えている。
「現役の将校なら五人もいないだろうな。あぁ君の部隊の首席幕僚、いや、大隊長代行か?
その、新城水軍名誉少佐も入れれば五人になるのかな。――ほら、もう一杯どうだ。口を濯いだ方が良い」
「――ありがとうございます。新城大尉、いえ、少佐ですか?彼もそうなのですか」
「あぁ。元々大隊長に贈るつもりだったからね。それに、駒城からも色々と話があったからな。」
「駒城から話?」
馬堂中佐が怪訝そうに尋ねる。
「そうだ。君は知らないのか?例の奏上の前に大隊長としての正当性の保証の為に水軍からも君と同等の扱いをしてくれと」
「奏上? 直衛が奏上したのですか?」
――下の名前、か。相当な古馴染だな。
「あぁ、其処で北領鎮台の首脳に総反攻の首謀者、守原達を強烈に批判したらしい。
駒州公達だけではなく、実仁親王殿下も関わっていらっしゃる様だ」
「マズいな、其処まで派手にやったら――」
初対面時には絶望的な状況で飄然としていた男が額に手をやって嘆息している。その妙に様になっている仕草は笹嶋に諧謔味を感じさせた。
「君も中々苦労しているのだな。いや、こういっては何だが意外だよ、路南では君の余裕に驚いたが」
「苦労知らずの小僧に見えましたか?」
豊久も口元を歪めているが、皮肉を感じさせない口調だった。
――単純にどう見えたかが気になるのかそれとも此方の偏見の度合いを探りたいのか
まぁ両方か。
「どちらかと言えば何もかも見透す妖怪に見えたよ。」
実際、笹嶋から見ても少なからず舌を巻く事が多々あった。准将であり、親王ある大物相手に交渉を仕掛けたのは、ある意味貴族将校としての習性に反逆しているようなものである。
「随分な世辞ですね」
そう答えを返した時には先程までの狼狽を笑みで覆い隠している。
――成程、軍官僚ではあるか。
「こうして見ると君にも苦労が多々あると分かるがね」
「それはそうですよ。形は違えども苦労は誰にでも多かれ少なかれ、あります。
まぁ、私は自分が恵まれた産まれなのは否定しませんがね」
実感の籠もっている事を感じさせる口
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