【渇望】
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殺されたという事実だけだった。そのきっかけを作ったのは他でもない、宗家の嫡子……
あの方が……あの子が、悪いわけじゃない。
宗家の嫡子の誘拐を試みた相手国が悪い。
頭では分かっていても、心が追いつかない。
戦争を回避する為の交換条件が、日向宗家当主の遺体の引き渡し……そのせいで、父上は……父様は───
母も、父を失くしてほどなく、あっけなく病で逝ってしまった。
余りの事が続き過ぎたせいか、上手く感情が働かない。
時が経つにつれてふつふつと、煮え滾るものを感じながらも父と母を失った俺は、分家の居住区画ではなく何故か日向宗家の本宅に住まわされる事になった。
特に扱いが悪いわけではなかったが、自分としては至極、居心地が悪かった事は覚えている。ヒナタ、様とも度々顔を合わせなければならなかったし……とはいえ、分家でまだ幼かった自分に拒否権があるはずもなく従う他なかった。
俺が六つの頃、日向宗家に次女が生まれた。
名は、ハナビと付けられたらしい。
──果たしてハナビ様は、嫡子とはいえ才能の無いヒナタ様より日向の才に恵まれているだろうか。
ふとそう考えてみたが、途端にバカバカしくなってやめた。
自分は宗家をも凌駕する強さを身につける事にのみ意識を向けなければ──
ヒナタ、様が何故か俺を“ネジ兄さん”と呼ぶようになった気がする。それまで特に名を呼ばれた覚えはなかったが。
何故、“兄さん”なのか。たかがひとつ違いの従兄妹同士……実の兄妹でもあるまいし。ましてや宗家分家という絶対的な主従関係でしかないというのに。
──“いとこ”は、漢字で表すと性別や生まれた順で前後はするが、俺とヒナタ様やハナビ様の関係性は従兄妹になる。宗家の姉妹に従う分家の従兄(じゅうけい)……漢字だけ見れば“従う兄”。どこか皮肉にもとれてしまう。争いを避け調和を好む彼女からしたら確かに俺は“兄さん”なのかもしれない。そう呼んでおけば、どこかしら許されると思っているのかもしれない。彼女は優しいのではなく……甘いのだ、自分に。
歳が十を過ぎた頃には自分から、宗家の本宅を離れ元々父と母と住んでいた家に一人で暮らし始めた。
自分で食べる分の飯くらいは、多少作れるようになっていたのでそこの所は問題ない。
……仏壇の父と母の小さな遺影を前に、いつものように手を合わせる。
『ネジ……あなたの名前にはね、螺旋という意味が込められているの。螺旋の“螺”の、別の読み方の“ネジ”から来ているのよ。──「ある一点から始まり、無限に成長していくことの出来る形」……。今はまだ判らなくてもいいけれど、無限の可能性である螺旋のように生きて欲しい……それが、父と母の願いよ』
い
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