【渇望】
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──物心つき始めた頃に気になったのは、父と母の額には常に額当てか包帯で覆われている事だった。
それを外した所を見たのはせいぜい、風呂や床に入る時くらいだった。
みどりいろの、へんなもようがついてる……
幼心にも何か怖いものを感じてはいたものの、直接聞いたわけではないがつい視線を額の方に向けてしまい、それに気づいた父や母がどこか哀しげに「まだ知らなくていいんだよ」と述べるに留める為、その後はなるべく見ないようにした覚えがある。
「今日はとても大切な日。宗家嫡子のヒナタ様が三つの歳を迎えるにあって、ネジ、あなたは──」
母はその頃体調を崩しがちで、顔色が良くなかった。
その日は晴れていたはずなのに、とても寒かった気がする。
母は玄関先で、日向本家に向かう父と幼い自分を憂えた表情で見送る。
……それが何を意味するのか不安だったが、父に無言で手を引かれ歩く他なかった。
自分とはひとつ年下の“いとこ”と聞いていた宗家嫡子のヒナタ様と日向本家前で初めて会わされた時、素直にかわいいと思った。まだ三歳になったばかりで、宗家分家の顔合わせの場に馴染めず不安そうに当主の後ろに隠れ気味にしがみついている様子は、誰に言われなくとも守ってあげたいと初めて思ったほどだ。
「──では、お前の息子を一時預かるぞヒザシ」
冷たい声が頭上から降ってきて、それをすぐ父上が遮った。
「お言葉ですが兄さ……いえ、宗家当主ヒアシ様、我が息子はまだ四つです。幼子にあれを、刻むのは──」
「早すぎると申すか。……我が宗家嫡子の娘が三つの歳を迎えた時、分家のお前の息子に日向の秘術を刻むのはとうに決まっていた事だ。それに逆らおうというのか」
「そのような、事は……ッ! ──承知、致しました。どうぞ、お連れ下さい……」
「父上……?」
「大丈夫だ、ネジ……心配、しなくていい。すぐ戻って来れる、はずだから……宗家当主様に失礼のないように、ついてお行きなさい」
目線を合わせて優しく言葉を掛けてくれたその時の父の表情を、今でも忘れる事は出来ない。苦しげで、哀しげな微笑だった。
──幾つか蝋燭の灯った薄暗がりの部屋に連れてこられ、冷たい台座のような上に仰向けに寝かされ、日向宗家の数人の大人に囲まれる。
……恐れと緊張で、吐き気さえ覚えた。
双子でも、顔つきの優しい父上と違って厳しい表情を崩さない宗家当主……
数人の大人が印を結び始め、それと同じくして当主の大きな片手のひらが自分の額に宛てがわれた瞬間、とてつもない激痛が脳内を走った。
その一瞬だけは覚えていたが、その後すぐ意識を失っていたらしく、朦朧とする中目覚めた時には、自分の涙が目元を濡らしていた。額を中心に、頭
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