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雲に隠れた月は朧げに聖なる光を放つ
前章2 崩壊は肉体まで
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視界がボヤける。動悸も早くなる。


ドッ‥‥‥ドッ‥‥‥ドッ‥‥‥ドッ‥‥‥

胸は刃物で刺されたような痛みが走る。呼吸そのものも苦しい。

(クソ‥‥ここまで来て終われない)

演技はトントン拍子に進む。あっという間に俺の出番になった。


審判から、演技開始の指示が出る。

「はい‥‥‥お願いします‥‥‥‥‥」

声が出ない。胸がさらに痛む。それを無視して、俺は助走を始めた。

そのまま、ロイター板を踏み切る。俺は、前方倒立回転跳び‥‥‥所謂ハンドスプリングの体制で跳馬に着床した。

(‥‥‥‥‥今!)

タイミングを見て肩を動かし、跳馬を突き放す。そのまま膝を折りたたみ、前方に一回、二回と回転する。さらに半分のひねりを加え、着地を取りやすくする。前方の宙返り‥‥‥所謂前宙は、そのままだと着地位置を確認できない。しかし、半分ひねりを加えることで地面がバッチリ見えるのだ。訳が分からなかった場合は、消しゴムを使って考えてみると分かりやすい。

ダダン!

足が着地マットについた。俺は膝を使って衝撃を吸収する。

「ッ!?」

物凄い痛みが胸を駆け巡った。が、なんとか堪える。折角着ピタしたので、動きたくないのだ。

「あ、ありがとうございました‥‥‥」

なんとか挨拶を済ませ、俺は自分の荷物のところまで歩く。

「グッ‥‥‥痛い‥‥」

思わず声に出る。が、勘付かれてはいけないので、なんとか無表情を作る。

次の種目である平行棒をなんとか乗り切り、残すはあと二種目となった。暫定トップだ。が、胸の痛みは加速する。視界はいよいよブラックアウトしかけている。手足の痺れはないものの、立つことが怖いのでなるべく座るようにした。次の種目は鉄棒だ。アップは最低限済ませ、あとは休憩した。試技順は最後から二番目だ。それまで瞑想する。

‥‥しばらく瞑想していると、いつの間にか自分の出番になっていた。俺は補助を受けて鉄棒のバーを片逆手で掴む。

胸が痛む。ドクドクと心臓は波打つ。それはまるで、血が流れ出したかのよう。

(‥‥‥やるしかない。行くぞ!)

俺は一つ大きな深呼吸をし、思いっきり勢いつける。一度手前側に来たあと、反対側まで戻ってくる。そのまま体の向きを反転させ、車輪‥‥‥所謂大車輪を行う。そして、勢いをつけて加速する。なぜなのかって?そりゃあ、離技を実施するからさ。

シャン‥‥‥‥シャン‥‥‥シャ‥‥バチンッ!!

タイミングを見て手を離した。高さがグングンと伸びる。さらにバーを飛び越える。俺は膝を曲げ、横にワンスピン‥‥‥まあ一回ひねりだ。一回ひねりながら縦回転を合計二回加える。そして、ボヤける視界ながらも再びバーを見つけた。

ガシャンッ!


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