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雲に隠れた月は朧げに聖なる光を放つ
前章2 崩壊は肉体まで
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「‥‥‥いいのに」

「‥‥はい?」

「私には、何話してもいいのに‥‥‥」

「わ、若芽?」

「私だって、彼女さんみたいに役に立ちたい」

「ええ(困惑)」

いきなりのカミングアウトに困惑する。それを分からなかったのか、若芽はさらに畳み掛ける。

「私、コウくんの彼女になりたかったな」

「‥‥‥‥‥はあ!?」

「‥‥‥私、ずっとコウくんのことが好きだったんだよ?私だけじゃなくて、他の女の子も‥‥‥‥」

「それ試合前に言うか?」

「それに‥‥‥‥」

「聞いてないんかい」

「それに、昨日は守ってくれて、とても嬉しかった。とても、キュンとしたの」

少し頬を赤らめる若芽。俺は脳内をフル回転させていた。これまで若芽とは、それなりに接点があった。よく一緒に話していたし、距離感も近かった。一緒にいて安心感がある人に変わりはないし、性格も少し聖と似ている。

‥‥‥未だに聖を引き出してしまうのは、良くない癖だ。まあ、結論としては千秋がいなかったら間違いなく惚れてたな、といったところだ。

「‥‥‥あのな、俺に彼女がいるのは分かっているんだろ?なんで諦めないんだよ」

「好きだからだよ!」

「やれやれ‥‥‥悪いけど恋人の関係は無理だ。友達以上ならギリ許容できるが‥‥‥」

「それは分かってるよ‥‥‥でも、単なる友達だけは嫌だ」

「だから友達以上なら許容できるって」

「やったーー!」

素が出たのか、子供のようにはしゃぐ若芽。あ、俺ら子供だった。

「やれやれ‥‥‥あ、時間そろそろだな。行くぞ」

「分かったよー、『コウ』」

「‥‥‥‥おう」

俺は突然呼び捨てしてきた若芽をできるだけスルーして、会場に向かう。直前練習開始まで、あと二時間半といったところだ。少し早足で急ぐ。









‥‥‥その後に待ち受ける、運命を知らずに。





「ハア‥‥‥ハア‥‥‥なんだ、これは」

俺は現在、鞍馬と吊り輪の二種目を終えたところだ。得点はまずまず。暫定三位だ。しかし今はそれどころではない。俺は先程から止まらない、胸の痛みがあるのだ。まるで刺されたような、鋭い痛み。呼吸も自然と荒くなる。水分もまともに摂ることができない。仕方がないのでゼリー型の経口補水液を飲む。少し楽になるも、胸の痛みが激しさを増す。それどころか、視界がボヤケ始めた。

(なんだ‥‥‥なんなんだ)

次の種目は跳馬だ。Tの字をした跳び箱だと思ってもらえればいい。ロイター板も通常の何倍も跳ねる。

とりあえず身体は普通に動かせるので、俺は競技を続行することにした。胸が痛むが、無視する。

二本だけアップをし、本番に備える。

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