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レンズ越しのセイレーン
Mission
Mission1 カッサンドラ
(2) スカリボルグ号機関部~同後部客室車両
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掴んで。


 ばびゅーん!!!!


 走り出した。
 残されたのは軽い埃と、珍しくポカンとする女秘書と、笑いを堪える偉丈夫だけだった。




 階段を飛び越え、車両を次々と通り抜けて後方車両に向かう。

「ちょっと――待て!」

 手を振り解かれた。ユティはユリウスをふり返る。ユリウスは息ひとつ乱していない。クラウンエージェントはダテではない。

「君は一体何なんだ。ルドガーの友人には見えないし、Dr.マティスの関係者でもなさそうだし」
「そうね。どっちもハズレ。ルドガーもジュードもたまたま乗り合わせただけの――他人」
「記者のたぐいか? さっき撮った写真をどうする気だ」
「どうもしない。残して、届けるの。とーさまに」

 鋭さの抜けないユリウスの蒼。ユティはその眼光を遮るようにカメラをユリウスとの間に挟んだ。ファインダー越しはまだプレッシャーが少ない。シャッターを1回切った。

「……何のつもりだ」
「初対面で全然信用してくれない男の図」

 くす、とユティは笑った。この写真を見た人物がどう思うかという未来を想像してであって、決してユリウスを小馬鹿にしてではない。
 ユリウスもその行動に毒気を抜かれてか、大きくため息をついた。

「このままだと、アナタ、指名手配される」
「は?」
「列車テロの首謀者として。そしたら弟くんも重要参考人になる。そんな時に身柄を保護してやるから働けって言われたら飛びついちゃわない? これで弟くん捕獲作戦大成功。弟くんを大事に守ろうとするお兄ちゃんの動きも封じられて一石二鳥。弟くんにはオプションで『蝶』も付いてくるから一石三鳥かしらね」
「どうしてルドガーを」
「心当たり、あるでしょ」

 ユティの指がユリウスのベストの左ポケットを軽くつつく。ユリウスが表情を変えた。先ほどユティを尋問した時の百倍恐ろしい形相だ。

「だから、逃げたほうがいい。今の内に遠くまで。クランスピア社が総力挙げて濡れ衣着せに来るんだもん。勝ち目、薄い」
「何故君はそこまで知っているんだ」

 ユティの首に双剣の内一本が当てられる。久しぶりのなじんだ感触。
 鍛練中、負けるたびに首筋には刃が当てられた。だから怖いとは感じない。彼はユティを傷つけない。

「ルドガーのことといい会社のことといい、君はクルスニクについて知りすぎている。君は何者だ」

 ユティは怖じる風も見せず、胸ポケットに手を突っ込み、中からある物を取り出した。
 青い夜光蝶をあしらった銀の懐中時計。ユティは時計を持つと、自らの殻を被って見せた。

「お仲間」

 マリンブルーのクオーター骸殻になったユティを、ユリウスは呆然と見つめた。


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