第三章
[8]前話
だが彼のその話を聞いてコーランにある占いは当たるものではないからしてはならないという言葉を信じるイスラムを深く信じる青年はこのことからその様な占い師はアッラーに反するので殺してしまおうと考えた、それでだった。
占星術の書の中に薄く鋭利な短刀を忍ばせてそのうえでバグダートにあるキンディーの屋敷を訪れた。そうしてだった。
彼に占いのことを教えて欲しいと申し出て術を教わると見せ掛けて隙を見て短刀で刺し殺そうと考えていた。
そうしてバグダートの彼の屋敷の者に話してだった。
キンディーと会った、するとキンディーは笑ってまだ髭を生やしていない青年のその顔を見て彼に言った。
「君が私のところに来たのは占いを教えて欲しいのではないな」
「そ、それは」
「私にはわかるからな」
笑って言うのだった。
「占いで」
「それでなのですか」
「左様、そして君のことも占ったが」
これまたキンディーは占いで知ったのだ。
「君は占いを学ぶと偉大な占星術師になる」
「馬鹿な、占いはコーランで」
「それでは私はもう既にアッラーに許されていなくてな」
「アッラーに裁かれている」
「そうではないか?」
青年に笑って問うた、
「そうならないか」
「言われてみれば」
「コーランに間違いはないがアッラーは寛容なのだよ」
「占いも実は許してくれる」
「人には占いにどうしても頼るものなのだから」
「それでこの世には占いがある」
「そうなのだよ、占いは駄目だが人はそれに頼ってしまう」
そうしたものだからだというのだ。
「コーランで禁じられていても」
「アッラーはよしとされるのだ」
「その寛容さ故に」
「酒を飲むことも然り」
コーランではこちらも禁じられているがというのだ。
「これ位のことはいいのだよ」
「その寛容さもアッラーの偉大さですか」
「私はそう考える」
「そして私も」
「若し私の下で占いを学べば」
占星術、それをというのだ。
「偉大な占い師になるが」
「そこまで言われるのなら」
青年も頷いた、そうして短刀を出してそれを折ってだった。
キンディーの前に膝をついた、そうして彼の下で十五年の間占星術を学んだそうして偉大な占星術師アブー=マーシャルとなった。
それを見てだ、キンディーは笑って話した。
「占いもまたアッラーの下に」
「そういうことですね」
もう立派な占星術師になっていた青年だったアブー=マーシャルは師の言葉に笑顔で頷いて応えた。
「その寛容さ故に」
「そして人は占いによっても叡智を得るのだよ」
キンディーは笑ってこうも言った、全ては古いイスラムの話である。
ムーサーの杖 完
2019・8・7
[8]前話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ