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ムーサーの杖
第二章

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「私が知っていることの全てを導師殿はご存知ないからです」
「では」
 ここまで聞いてだ、導師は自身の学識を否定されたとプライドを傷付けられて怒った顔になってそうしてキンディーに言った。
「そのことをお見せ頂こう」
「それでは」
「ではじゃ」
 カリフがここで動いた、そうしてだった。
 紙切れを出してそこにさらさらと書いた、それが終わってからキンディーに話した。
「二人共余が何を書いたのか当ててみよ、これで当てた方がじゃ」
「正しい」
「そう言われますか」
「左様、では二人共当ててみよ」
「さすれば」
 ここでだった、最初は導師が言った。
「私はこのことに脚絆を賭けます」
「私は見事な装具を付けた騾馬を」
「それぞれ賭けるな、ではな」
 ここで導師はカリフの気質から考えたがキンディーはすぐに己の占星術をはじめそれからカリフに対して述べた。
「はじめは植物、後に動物となるものですな」
「何っ、まさかそれは」
「ムーサーの杖ですな」
 預言者の杖だというのだ、実際にムーサーは杖を蛇日変えたことがある。
「それですな」
「その通りじゃ、お主が知ることは」
「私の占星術によってです」
「見事じゃ」
 カリフはキンディーの占いに唸り宮中にいた他の者達もだった、それは彼と勝負をした導師もだった。
 感嘆してだ、キンディーに賭けると言った外套を差し出した。だが見ればキンディーは既にいい外套を羽織っている。
 それでだ、導師は残念そうに述べた。
「キンディー殿には不要でしたか」
「いやいや、使わせて頂きます」
「どうされるのですか」
「ちょっと拝借」
 導師の手から外套を受け取った、そうしてその外套をすぐに二つに切ってこう言った。
「今は脚絆がないので」
「だからですか」
「脚絆にしても宜しいでしょうか」
「はい、賭けたものなので」
 それで差し出すからとだ、導師も反対しなかった。
「お好きな様に」
「それでは」
 こうしてだった、キンディーは脚絆にカリフからの褒美そして占いで全てを知るその叡智を讃えられた。
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