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戦国異伝供書
第六十五話 伊賀者その三

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「あえてされる」
「そうした方ですか」
「何でも都や髪型で流行ってそうだが」
「吉法師殿はそちらですか」
「あれはうつけではなくな」
「傾奇者ですか」
「それなのじゃ」
 そちらだというのだ。
「あくまでな」
「それでは」
「あの御仁はおかしくはない」
「あえてですか」
「傾いておられるだけでな」 
 それでというのだ。
「その文武の才略はな」
「見事な方ですか」
「わしより遥かにじゃ」
 それこそというのだ。
「その証拠にご領地はどうか」
「吉法師殿の」
「その政が乱れておると聞いておるか」
「それは」
「ないな」
「そてどころかです」
 こう竹千代に答えた。
「そのご領地は」
「まとまっておるな」
「田畑も街も整い」
 そしてというのだ。
「堤も橋も」
「整ってじゃな」
「悪人は徹底的に罰され」
「穏やかであるな」
「そうなっているとのことです」
「まことにうつけなら」
 吉法師、彼がというのだ。
「それならじゃ」
「そうした風にですか」
「なるか」
「それは」
 酒井もそれはわかった、それですぐに答えた。
「やはり」
「そうであるな」
「それはとてもです」
「まことにうつけ者かどうかは」
 このことはというのだ。
「まさにじゃ」
「その政で、ですな」
「わかる、吉法師殿はな」
「傾いておられるだけで」
「それが奇矯に見えるだけでな」
「その実はですか」
「違う」
 断じてという言葉だった。
「あの方はな」
「見事な善政で」
「ご領地がそうであるならな」
「民はついてきますし」
「兵もじゃ」
 こちらもというのだ。
「よく集まるな」
「はい、どうやらその兵も」
「集まっておるな」
「何でも農家の三男や四男をです」
「兵にであるな」
「雇い入れて」
 そうしてというのだ。

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