西暦編
第十話 リミテッド・オーバーB
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この二時間で倒したバーテックスのうち、半数以上が千景の戦果である。
だが、それも万全ではない。
精霊をその身に宿す『切り札』は、使用者の身体に大きな負担をかける。短時間で二度使用した千景は、気力も体力も限界に近かった。
「……ウジみたいに湧いてくる、気持ちが悪い」
吐き捨てる言葉にも覇気がない。
まだ意識ははっきりきているが、反応速度や手足の感覚がやけに鈍い。『切り札』を解かない限り、体力は急速に消耗していく。尽きれば、『切り札』の維持もままならなくなることは明白だ。
それでも、千景は『切り札』を使い続けるつもりだった。
「……私にしか、できないことだから……」
代わりはいない。他の誰でもない、自分が必要とされている。
それは、彼女にとって手にしたこともない何か――掴みかけたものを逃すまいと、気力を無理くり捻出する。
もう、無価値な自分になりたくない。
千景にとって、それは全てだった。
「あったまイイなぁ……あれ」
「考えたのは私じゃなくて、伊予島さんよ」
分裂した千景がバーテックスの群れを引き裂いていく。
その鬼気迫る戦いぶりに、思わず感嘆の声が零れる。武器の性質上近接戦闘が不得手な球子から見れば、次々と敵を撃破していく勇者の姿は痛快そのものだった。
とはいえ、バーテックスもやられてばかりではない。
切り込んできた少女を取り囲み、孤立したところを数の暴力で圧殺する。この短時間で正面からの戦いは分が悪いと悟ったのか、前後左右上方あらゆる方向から勇者へ殺到していく。
取り回しの悪い武器の勇者に抗うすべはない。瞬く間に三人を押し潰し、方々から勝ち誇るように甲高い奇声が上がった。
「……次」
そこに、無傷の千景が斬りかかる。
その身に宿した精霊ーー『七人御先』。その能力のお陰で、七人の千景がすべて同時に倒されない限り常に七人の千景が健在であり続ける。
例え前衛の五人が同時に撃破されたとしても、後衛の二人がいる限り倒された千景は次の瞬間に別の場所に存在する。体力が続く限り、戦力の損耗を限りなく抑えることができる。
敵の総数がわからない状況において、最適解に近い戦術だった。
そして、
「見つけた……伊予島さん、そこから北北西の方角に群態があるわ」
「ッ! わ、わかりました!」
当然、前衛ばかりが戦うわけではない。
勇者の端末にある索敵アプリを用いて、後衛の千景が勇者とバーテックスの配置を常時確認している。どんな変化をするかわからない進化型もどきの処理は、遠距離攻撃のできる杏と球子の担当だ。
完全に融合してしまう前ならばただの小型の集合体、数を潰せば処理できる。だが敵の融合速度も速く、思い通りにはならない。
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