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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第七十五話 六芒郭攻略戦(一)
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ンとて御付き武官として軍内に数年いてようやく理解できたようなものだ。


 軍団司令部からの報告を受け、”意見具申”を受けてからも、沈黙を保っていたユーリアは
メレンティンへ囁きかけた
「クラウス、貴方が仲裁できない?」
 メレンティンは頭を振り、囁き返す。
「殿下、私は本領貴族の少なからぬものを殺めているのです」
 今上の皇帝が帝位につく前の内乱でメレンティンは騎兵聯隊長として混乱しきった本領貴族諸侯の少なからぬものを殺めている。敵味方に分かれただけではなく抜け目なく中枢の権力を保持したまま双方に良い顔をしていた者達――中には生き残りに成功した者の一門に連なっていた者達も含まれていた。政治力に長けた彼らは今も中央におり、ゲオルギィ三世戴冠後の戦後処理に置いて大いに活躍していた者もいる。


「双方、落ち着け」
 ユーリアは勤めて表情を表に出さぬようにしながら声を発する。
「我々は蛮族共の本拠であるこの地を既に東半を征した。これはけして揺らがぬ事実だ。
本領軍の将らが意気軒昂なのは誠に頼もしい事であるが――事実として敵の後方連絡線は短くなっている」

「冬営を見越すのならば我々はあの要塞を一挙に陥落させ、来春に全力をもって短期で敵の防衛線を突破!一気に蛮都まで打通する!!
蛮族が本土のの東半分を“完全に”失ったことを知らしめて見せるのだ!いいか、”完全に”だ!10日以内にあの忌々しい要塞を叩き潰す!!
これは〈帝国〉軍元帥、東方辺境領鎮定軍司令官としての決定だ」
「‥‥」「‥‥」



「‥‥ままなりませんな」
 ユーリアは良くも悪くもそうした問題を気にしない。皇帝に連なる者がそうした争いに口をはさむべきではないからだ。
 だが東方辺境領の統治者としての立場もある。こうして意見が割れてしまった時点で潜在的な燻りのままになるかそれとも―― 

 メレンティンが垣間見た燻る火種は〈皇国〉と〈帝国〉の交わす砲火の下で徐々に、徐々に赤黒く染められた白衣の軍装が積み重なる下で広がってゆくことになる。



同日 午前第十刻 六芒郭 周辺域 第2軍団前線指揮所
東方辺境領鎮定軍参謀長 クラウス・フォン・メレンティン少将


 新城達が今後の苦労を憂いているのと同じころ、敵の領土の東半を制圧した東方辺境領鎮定軍が参謀長たるクラウス・フォン・メレンティン少将も同じように今後の手の付けられない程に膨れ上がった問題について頭を痛めていた。
 どこで歯車がずれたのか、と考えるとやはりアレクサンドロス作戦だろう。二個旅団規模の浸透攻撃により第21師団は事実上壊滅、第15師団すらも敗走の混乱に巻き込まれることになった。
 突破に成功したデュランダル師団長は肝心の本営が危機に晒され、側背を敵に晒している事に気がつ
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