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戦国異伝供書
第六十四話 婚礼の話その二

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「もう言わせませぬ」
「ここにいる者は一人としてです」
 家臣達を代表して酒井が竹千代に言った。
「殿に二心なぞです」
「わかっておる」
 竹千代は自身に畏まって言う彼等に応えた。
「わしはまだ幼いがそれでもな」
「人を見ることはですな」
「出来る、和上に教えて頂いた」
 だからこそというのだ。
「目が澄んで人相がよいならな」
「そうした者は」
「信頼出来る、お主達は皆な」
 まさにというのだ。
「目も顔の相もよい」
「だからですな」
「信じられる、間違ってもな」
 それこそというのだ。
「わしを背から切る様なことはせぬ」
「それは決して」
「そしてわしが湯や風呂に入っていても」
 その時もというのだ、この場合湯とは湯舟のことであり風呂とは蒸し風呂のことである。竹千代はどちらも好きなのだ。
「襲わぬは」
「それは確か」
 榊原が言ってきた。
「鎌倉殿の」
「お父上じゃ」
 源義朝、彼のことだった。
「平治の乱で敗れてな」
「東国に落ちられる途中にでしたな」
「尾張で、あった」
 この国に入った時にというのだ。
「信頼していた者の屋敷で湯を馳走になり」
「その時にでしたな」
「襲われてじゃ」
 そうしてだったのだ。
「殺されてしまった」
「左様でしたな」
「そうしたこともな」
「我等ではです」
「ないな」
「決して」 
 酒井は誓って言った。
「ありませぬ」
「そうであるな、わしは身の回りはな」
「我等がいて」
「わし自身もな」
 竹千代自身もというのだ。
「いざという時はな」
「馬術と水練で」
「逃げる」
「そうされて、ですか」
「戦の場の難を避ける、そしてな」
 竹千代はさらに話した。
「普段の暮らしでもな」
「そういえば」
 ここで石川が言ってきた、顔はいつも笑っている感じであるがやはり目が澄み顔の相は実にいいものである。
「殿は贅沢もされず」
「危ういこともな」
「されませぬな」
「そうしたことを気をつけてな」
「生きられて」
「母上の言われる通り」
 まさにというのだ。
「長く生きようぞ」
「また言いますがそれだけがです」
 また母が我が子に話した。
「私の願いです」
「そうなのですね」
「その後です」
「それがしが身を立てることは」
「母として思わざるを得ないです」
 どうしてもという言葉だった。
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