飛び出したり 誘ったり 飛びかかったら その3
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白浜坂高等学校は、海沿いの駅にある坂を高く登った先にある。最寄りの駅はその坂のふもとにあるので、全ての生徒や職員は必然的に朝から急斜面を登ることになる。
原付きでらくらく坂を登り終えた衛太郎は、校内の駐輪場にあるバイクスペースで停車した。
登校してきた生徒もまだまばらな時間帯なので、急いで出発したのは杞憂だったかもしれない。
エンジンの止まったバイクから鍵を引き抜いて、バッグを肩からぶら下げて花を抱えると、あくびをまたひとつこいて下足室へと向かう。
教室に着いたら適当に寝て過ごそう、などと考えながら花開いたばかりの花壇の前を横切る。
そのとき不意に、背後から歩きよってくる気配に感づいた。
いや、歩いてなどいない。人もまばらだというのに、ぱたぱたというせわしない足音が確実に、段々とその音量を増して聞こえてくる。
「おっす、津川ー。元気かー?」
その弾みの良い声で、振り返らずともその主が誰だか分かってしまった。というか、自分に率先して話しかけてくる女子は限られていることを衛太郎は自覚している。
それだけならよかったが、バシン! と背中に衝撃を受けたことで、あの小さな手で叩かれたと瞬時に理解した。
「……宮本、朝から元気すぎ」
威力は大したことはなかったが、同学年の女子にここまでされるのは、衛太郎的にはちょっとショックだったりした。
ゆっくり振り返る衛太郎のそんな心うちも知らず、普通科の夏服に身を包み、色の薄い長髪を背中まで流した小柄な件の彼女は不適に笑う。
「ふふん。油断してると撃たれるんだぜ。気をつけな」
と手で形作ったピストルの銃口を、まるで西部劇のガンマンよろしくふぅっとひと息吹きつけた。そのポージングで、小脇に抱えた一輪のカーネーションがゆれる。
何それ物騒、とツッコみたくなったのは言うまでもない。
このクラスメイトーー宮本 来夏の相変わらずのテンションには、未だに着いていけないときがあるので困ったものだ。しかし衛太郎がまともに話せる数少ない女子なので、なかなか邪険にもできないものがあった。
「ていうか、あたしが変なんじゃなくて津川がテンション低いんじゃないの?」
「……ほっとけ。それにしても、こんな時間に来てるってことは声楽部の朝練?」
「うん。今日はこのまま体育館に直行なんだ」
白浜坂高校声楽部。一般では合唱部と言われる部活動で、毎年全国大会まで行くほどのまさに我が校の期待の星である。それに、普通科と音楽科のふたつがあるこの高校では声楽部の部員は99パーセントが音楽科の生徒で構成されている。
しかしその残りの1パーセントというのは、この来夏のことなのだ。
衛太郎と同じ普通科三年一組に所属する来夏だが、歌うことを喜びとしている彼女はその音楽科の生徒ばかりの声楽部に飛
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