番外記録(メモリア)・あの日、喪ったもの(セレナ・カデンツァヴナ・イヴ誕生祭2019)
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……それに、私の夢を叶えてくれて、本当にありがとうございますっ!」
「ッ!?おっ、おう……そんなに喜んでくれるなら、俺も頑張った甲斐があるよ」
ツェルトにも遠慮なく、抱き着きに行くセレナ。ツェルトは不意を突かれたようで、一瞬驚いた表情を見せる。
セレナはいつしかツェルトの事を“兄さん”と呼び、実の兄のように懐いていた。
私にとっても、ツェルトは同い歳の兄弟のようなものだから、なんだか少しこそばゆい。
するとセレナは、ツェルトの耳元に口を近づけて何かを呟く。
次の瞬間、ツェルトが頬を赤らめながら吹き出した。セレナがいたずらっ子のように舌を出して笑っているけれど、何を囁かれたのやら。
「これからも、姉さんを頼みますよ。ツェルト(義)兄さんっ♪」
硬直するツェルトを残して、セレナは調と切歌にも抱き着いた。
「月読さんと暁さんも、ありがとうございます。こんなに嬉しい誕生日は、久し振りですっ!」
「セレナ……」
「そ、そこまで言われると、なんだか照れちゃうデスよ〜」
皆に感謝を伝えて、セレナは席に着く。私達も座ると、揃って手を合わせた。
「それじゃ、主役も来た事だし……」
「はい!わたしだけじゃ食べきれないので、姉さんたちも一緒に!」
「そうね。食べすぎてお腹を壊しても大変だし」
「わたしも、自分で作ったものの味を確かめたい……」
「アタシはもう……で、でもセレナが言うなら、あと2、3回!いや、10回、20回のおかわり程度、どうって事ないのデース!」
そう言って皆で、いただきます。小皿とスプーンを手に、巨大プリンを分け合った。
美味しい、って口々に言いながら。それぞれが心の底からの笑みで、この部屋の空気を満たしていく……そんな、一時のささやかな幸せ。
これが、セレナが迎える最後の誕生日になるだなんて……この時は誰も思わなかった事だろう。
私が、不甲斐なかったばかりに……。私が、間に合わなかったばっかりに……。
「……セレナ……」
信号が変わるのを待っていたツェルトは、助手席で眠るマリアの声に振り向いた。
セレナの夢でも見ているのだろうか。その目には涙が浮かんでいる。前方を見ると、信号が変わるまではまだかかりそうだ。
ツェルトはハンドルから離した左手を伸ばすと、親指でそっと、マリアの目元を拭った。
「……君のせいじゃない。俺がもう少し間に合っていれば、セレナは……」
ツェルトはハンドルを握る右手を見る。
それはあの日、大事な妹分と一緒に喪われたもの。彼の右腕は、肘から下が義手になっているのだ。
「でも……その後悔も、もうじき過去のものになる。ドクターウェルの話が本当なら……日本にはある筈なんだ。セレナを目覚めさせ、甦らせる
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